s

特別を特別に
1ページ/1ページ




伸ばした手を、引っ込めた。


いつからだろうか、僕が他人についてこんなにも頭を悩ませられることになったのは。しかもそいつが今目の前のソファーでぐうぐうと眠っているやつだと思うと余計に腹が立つ。やっぱり一発殴ってやろうか、なんて手を伸ばしかけてやっぱり止めた。下手に目を覚ましたりでもしたらそれこそ面倒くさいことになる。

いらいら、する。

どれもこれも全部山本武が悪いんだ、こいつがいとも簡単に好きだの愛してるだの離れたくないだのにこにこにこにこ笑いながら言うもんだから、僕はいらいらするんだ。山本武が僕に関わるようになってからなんだか心臓のあたりがぞわぞわと落ち着かない。心臓をぎゅうっと掴まれているように苦しくなって、体の機能が停止してしまったように動かなくなって。お陰で夜眠れなくなったり仕事に集中できなくなったり何をするにも山本の顔を思い出してため息が漏れたり。兎に角全部こいつが悪いんだ。

少しくらいバチを当てても山本に文句を言う権利はない…なんて思いっきり額を叩いてみた。痛さよりも驚きが勝ったのか、山本は慌てて飛び起き、そのまま手をソファーに置き損ねたのかそこから盛大に落ちた。




「ったー、いきなり何するのな…」

「……」

「…ヒバリ?」




安眠妨害されたってのに怒鳴るとか怒るとかなんにもしない。しかも僕の顔色を伺ってくるなんて変なやつだ。思わず名前を呼んでくる山本の声に反応しそうになった。でもそれが照れ臭くていいかけた言葉をこくりと飲み込んで、もう一度山本の額にでこぴんをしてやった。いてぇと呟いた山本はやっぱり怒ったりしないでどうした?なんて顔を覗き込んでくる。そう言う態度を取られると、また心臓が痛くなるんだ。なんで自覚してないんだこの天然は。一回死んで自分の脳ミソかち割ってみればいいんだ。




「責任、とれ!」

「へ?」




それって、なんて小首を傾げる山本に酷くムカついたから、トンファーを振り上げて殴りかかるとあっさりと手を掴まれて身動きが取れなくなった。掴まれた腕が、あつい。




「ヒバリ、」

「っ」

「もしかして、やっとオレのこと好きになってくれた?」




かああ、身体中の血液が顔に集中するのがわかる。山本の表情がだんだんとだらしなく緩んでいくのもよくわかって、自分の中に羞恥心が生まれた。




「はな、せ!」

「やだ」

「ふざけるな……っ」




不意に唇を塞がれて激しく動揺する。角度を変えて何度も何度も。いつの間にか腕を押さえていた手は、頭をがっちりと固定していた。なんとかしなくてはと思うものの、酸欠状態で頭がうまく回ってくれない。苦しい、と山本の胸を弱々しく(力が抜けて弱々しくしかできなかった)叩けば、ちゅ、とリップ音をたてて唇が離れていく。不本意にも、山本の腕にもたれてぐったりと呼吸を繰り返すのが精一杯だった。




「は、…っの、殺す気!?」

「ヒバリ、好き」

「!!」

「大好き」

「何、言って、」




うまく舌が回らない。頭の中がぐちゃぐちゃで考えはまとまらないし、多分今の僕は変な顔をしているんだろう。


…ああ、そうか。これが恋なのかな。
今までに感じたこともない胸の痛みも、行動も、全部、全部、山本のことを、

好きだったから?


認めるのはなんだか悔しくて、恥ずかしくて、むず痒いけど。




「そ、…だよ」

「え?」

「そうだよ、好きだよ!君が!死ぬほど!!」




文句あるかと思い切り抱き着いて胸に顔を押し付けてやった。驚いたようだったけど、暫くして強い力で抱き締めて頭を撫でてくる。それがなんだか心地好くて、ゆっくりと目をつぶった。










別を特別に


((君にあげるよ。))















私の山雲ってこう言うのが多いですが…こう言う青春ぽいの大好きなんです^^



090726

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]