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いつもみたいに笑ってよ
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バタバタバタ、廊下から騒がしい足音が聞こえる。誰が近付いてきているのかなんてわかりきってる、絶対咬み殺してやる、なんて仕込みトンファーをいつでも取り出せる状態にしつつ書類に目を通し続けた。


その内勢いよく扉が開く。文句を言ってやろうと振り向いて、気が付いた。様子がおかしい。




「……山本?」

「……」




一言も言葉を発せずに、山本は入り口に立ち尽くして動かなかった。なんだか不安な気持ちになる。




「山本?」

「ヒバリ、」

「っ、何か、あった?」

「……へへ、ごめん」

「山、」




がばっと勢いよく抱き着かれて体勢が崩れた。なんとか足で踏ん張ってみるものの、ぐらりと視界が傾いてソファーに倒れ込む。山本の顔はすぐ目の前で、その瞳に移る自分の顔まで見えそうな気がした。
…なんでそんなに、哀しい目をしているの?




「山本、」

「なぁ、ヒバリ」

「な、に」

「すきって、言って」

「え」

「言って、ヒバリ、お願い」

「……すき」

「…ん、ありがと」




にへら、頼りなく笑った山本の瞳から涙が零れた。ぎょっとして声をかければもう一度お礼を言われて深い口付け。ソファーのスプリングがぎし、と嫌な音をたてた。
生ぬるい液体が頬を伝ってソファーに染みを作る。



























「ヒバリが、いなくなる夢を見た」

「…は?」

「そしたらヒバリに会いたくなって、ヒバリの顔見たら安心した」

「……」




思わず頬が緩みそうになった。たとえどんな形でも、君が僕の事を考えてくれてて、しかも夢にまで出てきたなんて。自分最低だな、なんて考えながらも嬉しくて仕方なかったなんて。

少しくらい甘えさせてあげる日があったっていいだろう、たまにはそんな日だってある。
山本、名前を呼べば不思議そうに振り返る。両腕を広げていつもの声より少し大きい声で言う。




「はい、」

「いやはいって、ヒバリさん?」

「たまには、甘えさせてやらないこともない。その代わり、そのあとは、」











また、つもみたいに笑ってよ


((今まで言ったことなんかなかったけど))
((君の笑顔は落ち着くんだ))


(言っとくけどどこにも行かないし、)










ヒバリさん先輩の余裕。
たまには息抜きも必要だよね。



090801

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