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□運命なんて
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「イタリアに、行く」
自分の耳を疑った。驚いて声も出ないくらい。
でも山本の表情は至って真剣だったから、冗談じゃないことくらいすぐにわかった。
それは山本が高校3年のときの話で、僕も3年だった(言っておくけど留年じゃなくて合わせてあげただけだから)。山本とは中学からの付き合いであってとっくにそんな浅い仲じゃないわけで。いつも傍にいるのが当たり前になってたんだ。だからなんとなく最近山本の様子が変だなぁなんて感じ取ってはいたけれど、まさかこんなことを言い出すなんてこれっぽっちも思わなかった。イタリア、嗚呼、そう言うことか。例のボンゴレとか言うマフィアの一員になるんだね。まさか君がマフィアになるなんてことも、これっぽっちも考えなかったよ。
「へぇ、行きたきゃ行けば」
「ツナが言ってたんだけどさ、…ヒバリは、行かねーの?」
「イタリアなんて気が向かないしね」
「そっか」
「…」
寂しい、なんて、思ってない。
だから、涙なんて、でない。
「…」
「ヒバリ、」
「な、に」
「オレ」
「やっぱり止める、とか言わないでよね」
「あ、バレた?」
「当たり前でしょ、何年一緒にいたと思ってるの?」
「だよなぁ」
「ばか」
「ヒバリ」
「何」
「オレが、二十歳になったら」
「ん」
ふんわり、唇に山本のそれが重なった。
小さなリップ音の後、まだその感触の残る唇を手でなぞりながら、山本の方をみやれば少し泣きそうな顔をして笑っていた。
「待っててな」
「…」
「もっと男前になったら迎えに来る!」
「期待しないで待ってるよ」
「えー、酷いのな」
「…待ってるから」
「……うん」
「ずっとずっと、ここで待ってるから」
「うん」
「2年間、僕を置いていくんだから、ちょっとくらい男前になってないとね」
「だよなー」
「浮気したら咬み殺すよ」
「ははは、あり得ねーって」
「……山本」
「…ん?」
「ありがとう」
「…何、泣いてんだよ」
「君だって」
「違う違う、青春の汗だぜ!」
「それなら僕のだってそうだ」
「取って付けたようだな」
「うるさいよ」
「ヒバリ、ありがとう」
「…うるさいよ」
「すき」
「知ってるよ」
「うん、すき」
「…僕だって、」
「うわ、ヒバリが素直だ。悪天候で飛行機飛ばないかも、なんちゃって」
「イタリアに行く前に天国に逝かせてあげようか」
「冗談に聞こえない」
へへ、なんて困ったように笑う君の笑顔がすき。
力強く抱き締めてくれるその両腕がすき。
その綺麗な澄んだ瞳が、僕だけを見つめてくれるのがすき。
身体中で愛してくれるきみのことが、
「すき、だよ」
運命なんて信じないけど、君のことを信じてるから
((イタリア語勉強しようかな、なんて))
「久しぶりだなっ、」
あの頃よりも背が伸びて、
少し声も低くなって、
それでもそこには、変わらない笑顔があった。
「オレ、男前になっただろ」
「多少はね」
「相変わらずだなー、」
「君こそね」
「まーな」
「…待ってたよ」
「お待たせ」
さあ、行こうか、
なんて。
たまにはシリアスに…
それでもやっぱりハッピーエンド。
090814