俺にしては頑張ったもんだ。なんてあと半刻ほどで明日になる時計を眺め見ながら、近藤は腕をのばした。
首を動かせば、ゴキッと気持ちいいほど音が鳴った。


何を思ったか、近藤が苦手な書類整理を始めようと筆を取ったのは、晩飯を食べたあと。
つまり今から4時間ほど前である。
自分でも、よくここまで集中ができた。と驚くほどだ。


「近藤さん、調子はどうだ?」


近藤がそろそろやめるか、と机に転がった道具を片付けようとしたところ、少し遠慮がちに襖が開いた。
振りかえると、多少心配そうな表情をした土方が顔を覗かせていたのだった。

そんな顔をしなくても、と近藤は内心苦笑する。

実は、土方がこうして襖を開けるのはこの一回限りでなく、始めてから今まで五、六回ほどちょくちょく顔を出していたのであった。
珍しくデスクワークに励む近藤がよほど不安だったらしい。


「心配しなくてもある程度は片付いたよ。もう終わりにしようと思ってたところさ。」


積み上げられた書類を見て、土方は少し驚いた顔をしたあと、そうかとつぶやいてそれからお疲れさま、と微笑んだ。


「こんな遅くまで心配かけて悪かったな、今日はトシもゆっくり寝」

「よし、じゃあ呑むぞ!」

「…へっ?え、あの、トシ?」

「ほら、」

「いやいやいや!急に呑もうって…、ってか今から!?」


その笑みにおう、と一言返した近藤はこんな時間まで付き合ってくれた土方に感謝し、今日はゆっくり休めと言葉をかけようとしたところ、急に土方の大きな声があがり、どこから取り出したのか焼酎の一升瓶と、それに似合わないどこか洒落たガラスコップ、その他酒のつまみなどが近藤の前に広げられたのだった。
土方はと言うと、何当たり前のこと言ってんだよ、なんていう顔で眉間にしわを寄せている。


「…もしかして最初から俺と呑むつもりで一緒になって起きてたのか…?」

「ああ。そうだけど?」

「……」

「まあ、少し心配だったってのもあるけど。」


俺の感謝の気持ちを返して!

平然と近藤の期待を裏切った土方は、近藤の悲しみなどには目もくれず、嬉々としながらさっさと酒の準備に取り掛かったのであった。


「あ?どうしたんだよ。」

「いや、…なんでもないよ。つうかそれなんだ?」


背中にブルーを背負ってる近藤とは対象的に、酒を注ぐ土方はとても楽しそうである。


「ん?カルピスだよ。」

「かるぴす?」

「そう。これをこうやって焼酎で割るんだ。」

「ふーん。」

「うまいんだぞ!」


もはや諦めた近藤が土方の手にある白い瓶に興味を向けたところ、土方の口から聞き慣れない名前が出てきた。
それから興奮したようすで「かるぴす」について語る土方の話を適当に流しながら、近藤はきっと甘いんだろうな、とあまり酒が得意でないはずの土方に、小さく苦笑いをこぼしたのだった。


「ほら!」

「おう、サンキュ。」

「…ど、どうだ?うまいだろ?」


出来上がった酒を嬉しそうに差し出す土方から、少しアルコールの匂いがする白いコップを受け取った近藤は、ゆっくりとそれを口に含んだ。
隣には期待に瞳を輝かせた土方がいる。


「ああ。…よくこんなうまいもんみつけてきたなァ、トシ。」


案の定、きっと酒との比率は2:8ぐらいなのでは?と思うくらい甘い酒だったが、近藤さんに味あわせてやりたかったんだ、なんて誇らしげに笑う土方を見て、まあたまにはこんな酒もいいか、と思う近藤なのであった。

それからこれなら呑めるんだ!となぜか自慢気に言っていたはずの土方が、近藤に介抱されるのはまた別の話。




絆され甘美酒

(伝えたい甘さと伝わる感情)



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