書
□喧嘩の理由
1ページ/2ページ
見るたびに異なる顔、誰より豊富な知識、武術の素養――級長でもある彼の実力は、入学したての一年生としては抜きんでていた。生まれが忍びの大家であるとか、すでに親から忍術を習っているとか、そんな噂をやっかみ半分に囁かれるほど。
八左ヱ門にその話をした同級生は、ひとしきりズルイとぼやいた後、
「でも、そういうことならアイツが僕達より優秀でもあたりまえだよな」
と言った。八左ヱ門も、それならば三郎に一日の長があるのも当然だと思う一方で、その言い分に無性に反発したくなった。
「いってぇ……」
で、自分でもうまく説明できない感情の為に、うっかり喧嘩などしてしまったわけだ。基本的に忍術学園は、大きな怪我さえしなければ、少々の取っ組み合いくらいで先生に叱られることはない。高学年になると、かなりの怪我をしても生徒同士で解決してしまう。そのかわり、小さな怪我だの友人とこじれただので委員会をサボれる道理もないわけで。
もっとも、八左ヱ門は動物や虫の世話をしている方が元気が出るので、丁度いいのだが。
「よし。飼育小屋の掃除、おわり!」
お前ら、もういいぞ〜、と生物たちに声をかけて、隅に避けていたのを戻してやり、最後にきちんと鍵を閉める。
ここにいるのは皆、虫獣遁をはじめ、忍者が使う生物なので、賢くて獰猛だったり毒を持っていたりするのだ。危険には違いないが、八左ヱ門は彼らが好きだったし、最近ほんの少しだが彼らに信頼されている気がして嬉しかった。
「…あ」
「ん、委員会中か、八左ヱ門」
生物たちとの触れ合い、癒しのひとときを中断させたのは、さっきの噂の登場人物にして、理由不明の喧嘩の原因、鉢屋三郎。
(や、三郎は何も悪くないんだけど)
しかし、ちょっと気まずい。あの場で聞かれてはいなかったが……
「『三郎はたしかにすげえけど、別次元の人間みたいに言って、くやしいのごまかしてんじゃねぇよ』…だったか?」
「!?ななな、何でそれを…!」
「さ〜どうしてでしょう?あと『俺は絶対、三郎に追いついてみせるからな。そんで、絶対三郎「わーわーわー!!」
「くくく…随分熱烈に告白してくれて。三郎、照れちゃった」
「馬鹿にしに来たのか!?」
かってに繰り広げた喧嘩を、本人に知られた恥ずかしさで叫ぶと、
「まさか」
と、にやにや笑いを引っ込めた三郎が言う。