進級おめでとうございます!
私たちが店に着くと、茜ちゃんはとびっきりの笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい!今日は始業式だったのよね?」
「はい!」
「じゃあ進級祝いにご馳走しちゃうわ」
「さすが茜さんっ!」
ふふ、と笑って茜ちゃんは奥に消える。残った私たちは今日は担任がこうだった、とか学級委員にはアイツがいい、とかそんな他愛ない話をしていた。すると思いの外、早くに茜ちゃんは戻って来た。手には、パフェやらケーキやらジュースやらポテトやら、お金に貧しい学生にとっては遠い存在のものが沢山。
「え、茜ちゃん、こんなに沢山いいの?」
私が聞くと、茜ちゃんはニッコリ笑った。
「もちろん!5人に食べて貰いたくて昨日から作っておいたのよ」
「茜ちゃん…!」
「茜さんっ!」
「茜さん…」
「茜さん、優しすぎます…っ」
「お姉さん…」
「ちょっと奨太くん、誰のお姉さんだって?」
茜ちゃんは私のお姉さんなんだから。我ながら姉離れ出来ていないなと苦笑い。
「あら、奨太くんが弟だなんて、憧れちゃうわ」
「マジですか。まあ凜は俺に任して下さいよ」
「駄目な妹ですが、何卒よろしくお願いします」
「茜ちゃんってば!」
何だか話が変な方向に行ってしまっているのを慌てて食い止める。そもそも私は奨太と付き合ってなんか居ないのに。
「でもいいなぁ。こんな優しいお姉さんが居て」
みっちゃんが私の隣で呟く。私もたまに思うんだけど、こんなにいい姉の妹が私なんかで良いものなのか。つくづく幸せ者だな、と自ら思った。
「だよなぁ。綺麗だしスタイル抜群だし」
「け、健太は綺麗な人が好きなの?」
「さあー?」
健太の軽いセクハラ発言に何故かみっちゃんが反応。健太も馬鹿だなぁ…。
そんな光景をぼんやり眺めながらポテトを摘んでいたとき。ガラリと店のドアが開いたかと思えば、聞き慣れた声。
「あれ、何だ凜姉たちじゃん」
「あ、葵お帰り」
「葵くん久しぶりー!」
「ただいま。美咲姉も久しぶり」
私の弟、葵は健太の隣に座り、この料理を見て苦笑する。葵も今日で高校生、もとい新入生。いやぁ実におめでたいよね。
「うん、それじゃあ葵も揃ったところで改めまして」
(なんて幸せな1日だろう)
(ここは天国?)
10/04.優しいお姉さんが欲しい…。れいな