花鳥風月

□艶姿
1ページ/2ページ

朱雀を召還して、青龍との戦いが終わってから数週間経ったある夜。次の日は元の世界に帰らなくてはいけなかった。
私は柳宿の部屋の扉をそっと叩く。もう眠ってしまって、返事がないなら諦めようと、そう思っていた。

柳宿「……はい」
ひな「あの…私…」

すぐに扉は開いた。

柳宿「あら、何、どうしたの?」
ひな「うん…ちょっと…」
柳宿「なんか…訳あり?」
ひな「そんなことないんだけど…」

柳宿は気づいてたんだろうか。あたしのただならぬ様子に。訳も聞かず、ただ部屋へと入れてくれた。

柳宿「いいわ、入って。お茶とお茶菓子あるけど、食べる?」
ひな「うん。」
柳宿「今夜はいい月が出てるわ。たまには月を見ながらお茶ってのも悪くないもんよ」
ひな「…うん」
柳宿「…どうしたの?元気ないわね」


柳宿と一緒に、元の世界に帰りたい。
それが私の正直な気持ちだった。でも言えない。
それは、柳宿にこの世界を捨てろって言うこととまったく同じで……。


柳宿「…聞いたわよ。元の世界に帰るんでしょう?」
ひな「うん…」
柳宿「今夜は、そのことで来たの?」
ひな「…うん」


私と一緒に私の世界に来てください。そんなワガママを言えば、嫌われそうな気がして、怖い。


柳宿「戦争を終わらせた英雄が、何をためらってるのよ!」
ひな「…月が…」
柳宿「ん?」


喉まで出てる言葉が出ない…。言おうとしてもすぐにごまかしてしまう。


ひな「月がきれいだから、柳宿と一緒に見ようと思って〜」
柳宿「…そう」


柳宿と一緒に見る空も月もこれで最後だと思うと涙が出そうだった。


ひな「もうすぐ…この世界ともお別れだから…」
柳宿「…そうね。貴重な夜を、あたしのために過ごしてくれるんだ」
ひな「…ごめんね、急で」
柳宿「ううん。光栄よ」
ひな「…きれいな空だね」
柳宿「ええ」
ひな「私の世界の空はね、こんなにきれいじゃないよ」
柳宿「そうなんだ」
ひな「色んなことが、この世界とは違うんだよ!」
柳宿「…きっと、そうなんでしょうね」
ひな「でもね…それでも…。もし…よければ…よければ…ごめん。なんでもない」
柳宿「…どうして泣くの?」
ひな「…お願い。聞かないで。今日はもう…寝るね」


涙を拭いて、そう呟く。


ひな「おやすみなさい」
柳宿「…おやすみ…」


柳宿とのことは、もういいんだ。
柳宿との思い出があるなら、私はずっとこれからも強く生きていける。だから…。 諦めようとした時…



柳宿「待って!ひな!」
ひな「え…」


振り向くと同時に、抱きしめられていた。


ひな「ぬ…りこ…」
柳宿「バカよ。…あんたは、大バカなんだから。」
ひな「え…」
柳宿「言いたいことはなんでも言いなさいよ!なんで今さら遠慮なんかするの。あたし達の中ってそんなもんだったの?一緒になんでもやってきたじゃない!お願いだから、ちゃんと言って」
ひな「…お、」


涙が、ボロボロとこぼれるのが分かった。
私は柳宿に抱きついたまま…


ひな「思い出になんか出来ない…過去のことになんか…出来ないよ…柳宿…一緒に来て…」


この気持ちは、理性なんかじゃ抑えられない。


ひな「私と一緒に来て!」
柳宿「…ええ、行くわ。いつまでも、一緒よ」
ひな「…柳宿」


罪の意識とうれしさが、頭の中でごちゃごちゃになっていく。私は、ずっと泣き続けていた。
朱雀への2つめの願いで、深咲ちゃんを現実世界に帰した私はーー。
3つめの願いで、柳宿と私の世界で結ばれるように願った。それから、色々なことがあった。柳宿はこちらの世界に転生して、私を捜してくれていて……。
数年後、再会した私たちはーー。同居生活を始めた。


ひな「柳宿〜!これも持って〜」
柳宿「もう、荷物多すぎよ!」
ひな「そんなことないって。柳宿こそ、いっぱい荷物あるじゃん。」


そう、私と柳宿の新たな生活を始める日だった。


ひな「柳宿がいると頼りになるな〜」
柳宿「当然よ。」
ひな「あ、それは…あたしが持ってく♪」
柳宿「な〜に?あんた、まだ持ってたの?」
ひな「うん。だってこれは…これは柳宿があたしにくれた最初のプレゼントなんだもん!」
柳宿「じゃあ、久しぶりに二人でお菓子作ってみる?!」
ひな「うん。」


昼下がり、引越の荷物を運び終えた頃。
私達は台所へとたった。


柳宿「じゃあ、ひなは分量計ってね!」
ひな「柳宿は?」
柳宿「私は、器具を用意するわー」
ひな「うん。」


二人で料理するのは久しぶり。
いっつも柳宿が作った料理を食べていたからである。
なにより、あたしが作るより、美味しいんだもん。


ひな「柳宿〜!牛乳とって〜」
柳宿「はいはい。」
ひな「うわぁ〜」


柳宿から牛乳を受け取ろうとした、椅子につまづいてこけそうになった。


ひな「あれ?痛くない…」
柳宿「まったく。ひなはドジなんだから〜しっかりしないさよ。」
ひな「柳宿…ありがとう…」


こけそうになった時、柳宿が牛乳とあたしを受け止めてくれたのであった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ