そのダウト、ゴミ箱に。

□2つ目のゴミ
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 いつもより早くに目覚ましが鳴る。ずっと学校に行ってなかったはずのアキはこんなに早くは起きれないはずなのだが、目覚ましが鳴る前から既に起きていた。



引っ越したての新しいマンションを見渡すと、そこにはまだ段ボールがいくつか見える。

元々荷物は少ない方だったのだが本家から父親、つまり本家から大量に資料が送られてきたのでそれがかさ張って中々片付かないでいる。


資料の中身はナツの友人関係のだったり仕事のことだったり。知人の呼び名までもが書かれてあった。これだけ本家も必死ということなのだろうか。



とりあえず、今日のところは親しいであろうクラスメイトの名前でも覚えようかとアキは早く起きたのだ。



ペラペラと紙を捲っていくと、そこには【須王】の文字が。



「―――アレ、同じクラスだったんだ…」前々から目立ってはいたが同じクラスだとは気が付かなかった。否、気が付いていたけど忘れてしまっていたかもしれないが。


アキはマーカーでぐるぐると印を付ける。ついでに学年主席の同じクラスの委員長にも付ける。



【須王】は理事長息子な筈。仲良くしてて損はないが、仲良くしすぎると可笑しな部活に勧誘されるとのこと。…なんだかこの調査書色々適当だな…



ゆっくりやっていたのだろうか、そろそろ家を出なければいけない時間になった。マンションに住んでいるのはナツが本家を出入りしているのは不味いから。

かと言って七瀬に住むわけにもいかず(居づらいから)マンションを買って、そこでしばらく暮らすことになった。



幸い送り迎えはしてくれるらしいからマンションの下で待ち合わせをしている。
てっきり電車で通うのかと思ってわくわくはしていたのだが。



生徒手帳は流石に偽造できなかったのでナツのをそのまんま使っている。


前髪を掻き上げて鏡を見る。相変わらずそっくりだ。多分バレないだろう。前髪を整えて、ナツと一緒に写っている写真を手に取る。




「――――いってきます」







教室に入ると皆アキの方を見た。とりあえず適当にあいさつを交わし、ナツの席に座る。驚いた、まったく気付いていない。目を隠したのが正解だったのだろうか。


アキとナツは双子だから、たとえ男と女であってもそっくりだ。まるで、コピーのような感じである。


声も、男にしては高い、女にしては低い声をずっと保っている。それは、ただ単にナツの声変わりがなかったこともあるが、他の大人に「そっくりだね」と言われるのが嬉しかったからだろう。



ほとんどナツのまんまに男装しているアキだが、1つだけ2人を並べると似ていないところがあった。それは本人にしか分からない些細なことで、他の人は気付かないが、自分たちはすぐに分かってしまう。




 それは、目である。




アキの方が睫毛が長いのだ。女の子らしいと言えばらしいが、本人は凄い気にしている。それは、ナツが成長すると目に見えてわかり、アキがわざわざメイクをして似せないようにするまでだった。


何故メイクをするかと言うと、中途半端に似ているということがいやだった所為もある。だが、はやり父と母のゴタゴタがあり、自分を見つめる母の目が冷たかったからである。




よく聞く話だと【双子は痛みを共有する】そんな事があるが、2人は共有することは出来なかった。現にナツが事故に巻き込まれてもアキは痛くなかったし、そんな事が起きていたなんて考えもつかなかった。


 アキは少しでも双子らしくなれるように努力をしたが「男と女なのだから仕方がない」そう考えるようになり、別々の人間として今もこれからも生きていくつもりだった。





 これが今はどうだろうか。




アキは今の自分の格好をもう一度よく見る。男の制服を着て、髪も切って…まるでナツじゃないか。


あんなに依存するのは止めたのに、これでは元通りになってしまうかもしれない。


でも、これも運命だろうか。



授業は右から左へただただ流れるだけだった。アキの頭にはちっとも入っていない。


否、既に入っていると言ってもいいだろう。家にいる間はやることが無く、勉強していたので本来なら授業は受けなくてもいい筈なのだが。ナツ単位が危ないと聞いていたのでしたかなくその場にいる。



ナツで危ないと言うのならアキはどうなのだろうか。学校に行っておらず、テストしか受けていない状況。

前に本家から聞いたのは、テストが毎回満点なので単位が倍になっている、と。可笑しな制度を取り上げたものだ。まぁアキには持ってこいだったが。





それにしても皆気付かなすぎではないかと疑問になる。寧ろアキが空気のように、その場にいてもいなくても同じような存在になっているような気にもなる。


ナツは前々からそうだったのだろうか。



アキは思った。「ナツの事、知っているようで何も知らないな」それは空白の1年があったからで、その前の事は何でも知っている。


全国大会で優勝しただとか、コンクールで賞を貰っただとか。最近セロリが食べれるようになったことも前は知っていたのに。



 空白の1年が惜しく感じる。でも、それはどんなに本人達が埋めようとしても埋まらないことで、やはり埋める事を許さなかった親がいるからだろう。
 




今日は空が澄んでいる。窓側の席なので日光があたって程良く気持ちがいい。まだまだ外は寒いので室内はまるで温室のように暖かいが。



アキは目を細めた。これから自分はどうなってしまうのか、ナツはどうなってしまうのか、自分には見当もつかなかった。






そう、これからアキの人生を大きく変える出来事が起こることも、大切な仲間ができる事も、人と関わりが持てるようになる事も、しばらくはこのこの学校が見おさめということも。




 彼女は知らないのだ。








 

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