そのダウト、ゴミ箱に。
□3つ目のゴミ
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アキは桜蘭での生活も慣れ、環とも同じクラスメイトの人とも言葉を交わすようになっていた。いつも通り図書室に行き、分厚い英文の本を借りて中庭のベンチで訳している。
つまり現在進行形だ。ing形だ。訳しingだ。(笑うとこ)
半分のページを訳し終えて、一旦休憩でもしようかとその場を立つ。
すると、すぐ後ろから何かか大きな音を立てて割れる音がした。
吃驚してアキが後ろを振り向くと、自分がさっきまで座っていたベンチは破壊されていて、その周りには花と粉々になった花瓶が散らばっていた。
上から花瓶が落ちてきたのだとアキが気付くまではそう時間はかからなかった。
もし、今立ちあがっていなかったら…そう考えただけでも恐ろしい。意図的に誰かが落としたのだろうか?そう考えると顔を上げれなかった。
足に力が入らないアキは、自分が今立っているのかすら分からなかった。
すると、誰かがこちらへ走ってきたのを視界の隅に捉える。茶、金、茶…3人だろうか。アキがゆっくり顔をそちらに向けると、がっちりと肩を掴まれ、大きく揺すられた。
「大丈夫だったか!?七瀬君!!!」
「…う、ぁ…」
アキを大きく揺すっているのは紛れもなく須王環本人で、整った顔をしている彼は半泣き状態だった。
あまりにも揺すられるので、多少気持ち悪くなってきたところで、止めの声が入る。
「チョットー。殿、揺すりすぎだから」
「そうそう。吐いちゃうかもよ」
環の後ろに立っていた2人に目をやる。すると、驚いたことにそっくりな双子だった。
制服が中等部のものだったから年下だろうとアキは思った。それにしても年下に敬語を使われていない環とは一体…
言われないと気付かなかったのか、環はやっとアキを解放した。かなり気を抜いていたので、環に触られていたことは考える余裕がなかった。
それより先に目の前のドッペルゲンガーズだ。
「…光、馨。ホラ、謝らないか」
「…え?なんで?」
何故今会ったばっかりの2人に謝られなければいけないおんだろうか。アキが問うと、環が「花瓶、落としたのコイツ等なんだ」と教えてくれた。
「「えー…」」
双子は謝るのが心底イヤそうだった。中々謝らないので、環が叱りつける。それを見ていたアキは、それを見かねて息を吐く。
「…須王君、もういいよ」
「でも…」
「俺は怪我してないし、まぁベンチは壊れちゃったけど…悪気があったのなら、別な話だけどね」
謝らないのは、自分に当てようと思って落としたからだという可能性もある。その時は…、どうしよう。
アキがそう言って双子の方を見ると、焦ったように訂正してきた。
「いや!わざとじゃないよ!」
「僕等が遊んでたら、肘がぶつかっちゃって…!」
「えっそうなんだ…」
悪気があったと解釈されるのは流石に嫌だったらしい。わざとではなかったと聞き、アキはホッと安心する。
「うん…だから…、」
双子の少し優しそうな方が何かを言いたそうにしていたのでアキは黙って待つ。
「だから…」
「……」
意地っ張りなのだろうか、二人揃って次の言葉が中々出ては来なかった。季節は春に近付いているが、まだ風は冷たく、頬に当たる度に体が震えた。
環もアキも静かに待っていたが、携帯が鳴った音が聞こえて沈黙は破られる。
ちなみに鳴ったのはアキの携帯だった。
「あ、えっと…」
「七瀬君、いいぞ。出ても」
アキがちらっと横を見ると、環がうなずいてそう言ってくれた。お言葉に甘えて携帯を開くと、久我の携帯からの着信だった。
ありえない、まさか久我から電話がかかってくるなんて。まだこん睡状態なのではないのか?
「…ご、ごめん!また明日ね!!」
鳴っている携帯を握ったまま、その場を逃げるようにアキは立ち去る。
後ろから環が何か言っていたのが聞こえたが、それどころじゃなかった。
「「あー…行っちゃった」」
「どうしたんだろうな…」
アキが去って行った方向を見つめながら、3人は口を開いた。
彼にかかってきた電話の主は誰だっただろう。あんなに慌てているのはなんでなのだろうかと黙って考えていた。
左分けの少し大人しそうな双子の片方は謝ることが出来なかったのを後悔しているように顔を歪ませた。
「馨?」片方が、顔を歪ませているもう片方に問うと、笑って「なんでもない」とだけ言って、またアキが走って行った先を見た。