そのダウト、ゴミ箱に。

□6つ目のゴミ
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私立桜蘭学院は、一に家柄二にお金。財ある者は暇を持ち、かくしてホスト部とは暇を持て余す高等部美麗男子6人+1人が、同じく暇な女子をもてなしうるおわす。

超お金持ち学校独自の華麗なる遊戯なのでありました。




さて、その彼等に囲まれたのは1人の哀れな少年の姿をした少女。アキだった。


事を簡潔に話すと、アキが鏡夜に頼まれていた大切な書類を汚してしまったのだという。

鏡夜の物を汚してしまったのだからそれなりに命を捨てる気で謝りに来たのだが、まさかこんなことになるとは。


360度から美少年に穴が開くほど見つめられ、そろそろ己も限界である。



「あ、あの…」

「…七瀬君」

「はい…」


黙っていた環が口を開く。彼が黙っている事など滅多になかったため、アキは体を固くする。視線を落とすと、テーブルの上にある汚れた書類。完全なる自分の不注意だった。


「ようこそ、ホスト部へ」

「――…は?」

訳が分からないと言うように顔を上げるとそこにはいつもの環が。

書類を汚してしまったこととホスト部に入るという事との共通点が分からない。何故自分がホスト部へ入らければならないのだろう。

ちらりと鏡夜を見ると、アキを見てにっこりと笑っているではないか。恐ろしい。



「いやぁ、助かったよ。これから大きなイベントが山のようにあってね。人手不足だったんだ」

つまり、雑用か。



アキはあたりをぐるりと見回し、息を吐く。これはもう強制なのだろう。目の前の彼相手に自分が拒否権を持っているとは思えない。

ハルヒは哀れとでも言いたいような目でこちらを見ていた。藤岡さん、も、このような目に遭っていたのだろうか。


「ナッちゃんも今日からお友達だよ〜」

「えっあっ、よろしくお願いします」


自分の下の方から声が聞こえてきたと思ったら、そこには高等部の制服を来た小さな男の子がうさぎのぬいぐるみを持ってアキを見ていた。

ナッちゃんとは、自分のことなのだろうか。

その小さな人の後ろには、この前助けてくれたモリ先輩、が。そういや、名前聞いてなかったな…。名前、名前…


名前といえば、彼だ。ずっとガン見されていたので振り向けずにいた方向をちらっと見る。するとたちまち目線がぶつかる。名前、聞かないと。


「よろしく、ナツ!知ってるとは思うが一応自己紹介を。俺はこのホスト部の部長でありキングの須王環だ!」

どこからともなく花が舞っているように見えた。気のせいだろうか。次々に自己紹介をしていく。部の決まりでファーストネームで呼ぶとかそうではないとか。

アキが「須王君と鳳君と…」と覚えたての名前を聞いた時に注意されてしまった。仕方がないのでファーストネームで呼ぶことになったのだが。


「えと、環君と鏡夜君とハルヒと光君と馨君とモリ先輩とハニー先輩」

そうそう、あの双子は光と馨という名前らしい。先日に図書室でお世話になったのは多分馨の方だろう。あっちが何も言って来ないけれど。

「何故ハルヒだけ呼び捨てなんだ!」

「それじゃあ…何て呼べばよかった?ハルヒ、ちゃん?」

「!!!」


ぶーぶーと文句を言っている環を横目にアキはハルヒに入れて貰った紅茶を飲む。

言ってから気付いたのだが、これは言ってはいけないことだったような気がする。

男子の制服を着ているし、確信は持てなかったからカマを少し掛けてみようと思っただけだ。


…あまりにも、周りの反応が良すぎる。






その場は絶句をしている部員ががほとんどで、鏡夜も何やら脅迫をしているようだ。

ただ1人、ハルヒだけがぽかんとしていた。彼女は、そこまで自分の性別がバレるということが不味いことだと知らないように思えた。否、周りが大げさにしているだけかもしれない。


「あのねぇナッちゃん。ハルちゃんが女の子なのはナイショなんだよぉ」

光邦に袖を引っ張られる。人差し指を一本立てて、口元に持っていくその動作も愛らしい彼は一応3年生らしい。

「部の為に、ハルヒの為に、どうか内密に…!!」

真っ青な環に必死にお願いされてしまったら、何も言えなくなってしまう。

「う、うん…」


その場の勢いに押されて、YESと答える。なんでも、ハルヒは花瓶を割ってこの部に借金をし、その分を指名で返済しているらしい。

この部は花瓶を割るのがそんなに好きなのだろうか。


アキは隣に立っているハルヒを見る。身長は自分よりも小さく、女の事言われればもうそれにしか見えなくなってしまう。


大きな目、小さな顔。髪もさらさらだ。細くて、今にでも折れそうな、そんな手足。可愛いなぁ…


「ナツ先輩」

見ていたら視線が合って、ハルヒが先に口を開いた。


「ん?」

「これから、よろしくお願いしますね」


そう言って少しばかり笑うハルヒの頭をポンポンと撫でる。本人は嫌がる様子も無く、こういうのは慣れているのかな、とアキは思った。


「うん、よろし…「ハイダメダメー」わっ!」


撫でていた筈の彼女が、光に寄って己の手を離れた。「ちょっと、光…」ハルヒはため息を付いて、その腕の中から離れようとする。

なるほど、彼等と一緒なら驚かなくなるのも納得する。


「お触り禁止ねー!」

「そうなんだ?ごめんね、ハルヒ」

「いや…自分は別にいいんですけど…」


アキが視線を落とすと、ハルヒはちらっと光や環の方を見た。

「ハルヒも鈍すぎっ!ねぇ、馨……馨?」

「…え?あ、そうだよねー!」

光が馨に同意を求めると、馨はハッとしたように光に乗っかる。その時兄は思ったのだ。弟が何か可笑しい。

その後は普通に今まで通り環を2人でいじったので、やはり気のせいだったのかと思わせた。


「さて、ナツ。今日の仕事だが…」

「今日から?」

「なんだ、文句でもあるのかな?」


パラパラとファイルを捲る鏡夜にそう言うと、にっこりと笑ってしまわれる。

こうすると自分は何も言うことが出来ないので「何もありません」と小さく言う。


今日の自分がすることは、来月に控えたクリスマスパーティーの準備を鏡夜と一緒に進める事だった。







 

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