サッカーボールを空高く蹴り上げる。肌寒く雪が積もっているグランドで声を出して駆け回る少年少女。泥だらけになっても、傷だらけになっても、このサッカーボールを蹴ることはやめない。
18番のユニフォームを着ている私も例外ではない。サブのFWの意味を持つと言われているこの背番号は、あまり試合では見られない。1と8を足して9、つまりサブのエースストライカー。決して妥協しているわけではない。
好き好んでこの背番号を付けているのだから、私は大分変わり者なのだろう。
本来ならば9番の背番号を付けたキャプテンを中心に部活をするのだが、今日はそのキャプテンが中々現れない。またスキーやスケートをしているのだろうか。
「――あれ、喜多海くんは?」
紺子ちゃんが辺りを見回しながら言う。9番の他にもいない人がいるらしい。私はため息をつきながら「今日はいないみたい」と呟いた。ふらりと何処かへ行ってたまにサッカー部に顔を出す喜多海くんにはもっと真面目に部活動に励んで欲しいところだが。
転がってきたボールを拾い上げて空を見ると、少しどんよりとしてきた気がした。そろそろ雪がふるのだろうか。
「そろそろ、終わりにしようか」
チームの皆は名残惜しいように後片付けをはじめる。私はボールの前に立ってボールを足元に置く。
大きく息を吸って吐いて。目を瞑ってゴールネットが揺れるイメージを頭に描いて、技の名前を小さく口にだして目を開く。
「…エターナル、ブリザード」
ゴールネットは私の蹴ったシュートによって少し凍っていた。ボールが綺麗にネットを揺らす。
ボールを拾いに行くとあまり汚れてはいなかった。私のシュートは完全ではないと改めて感じてしまった。
「莉緒ちゃん、足は大丈夫?」
「もう全然平気よ」
心配そうに私の足を見る紺子ちゃんを安心させるように私は笑う。ストライカーとマネージャーを兼業している現在。少し前に事故で足を怪我してしまって、入れ替わりで出ていた試合にも出れなくなってしまっていた。
ストライカーが足を怪我するのは致命傷で、安静にしていなさいと医者に言われたにも関わらず隠れてサッカーをやっていた私はこんなにも長期の治療になってしまっていた。リハビリも順調に進んで、ここ1、2週間で今まで通りのプレイも許されたのだ。
「――あ、暖房入れてくるね」
そういえば先ほど先生に言われたことを忘れるところだった。普段はこんな時に入れないと思うのだが、今日は誰が来客でも来るのだろうか?
後片付けを頼んで急いで校舎内に駆ける。途中雪に躓いて転びそうになったがそこはサッカーの要領で華麗に体制を維持した。こういう時にも役に立つなんてサッカーはすごいななんて一瞬でも思った私はかなりのサッカー馬鹿かもしれない。
少しトイレに行っている間に何やら教室が騒がしくなっていた。かなりの大人数の声が聞こえる。そういえば荷物を置きっぱなしだったことに気付いて、後ろのドアから静かに入ろうとする。
「あれ、莉緒ちゃん」
そう声を掛けてきたのは不在だった9番でキャプテンの吹雪くんだった。
「ふ、吹雪くん!一体今まで何処に…!」
「ごめんね、ちょっとお散歩に行ってたんだ」
お、お散歩って…。しゅんと小さくなる吹雪くんになにも言えなくなって仕方なく一緒に教室に入る。
「皆、吹雪くんがやっと来たわよ…あれ、」
思っていたより多い人数が視界に飛び込んできて胸が大きく弾んだ。散々見たことある顔ぶれに開いた口が塞がらなかった。
どうも、彼等雷門のお目当ては吹雪くんだったようで私の隣の吹雪君を見て絶句していた。噂の一人歩きがきっと原因なのだろう。
この後監督と名乗る若い女性と皆大好き円堂さんから聞く話があまりにも私にはストンと落ちてこなくて、柄にもなく挙動不審になってしまうのはこの時の私には全く検討もつかなかった。