中編寄せ集め

□場所
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一回廊下に出てしまったのでさっきまで暖かかった私の体は冷え切っていた。ストーブを囲むように白恋中の皆と温まっていると、ピンク頭の選手が出て行ってしまった。彼はFWの染岡さんではないだろうか。


自分のせいで出て行ってしまったと申し訳なさそうにする吹雪くんに大人の若い女性が近づいいた。


「吹雪くん、少し時間いいかしら」

「ええ、っと…」

「私は吉良瞳子、雷門中サッカー部の監督よ」


そう言われて私も驚いてしまった。前に大会で見たときの監督とは変わっていたからだ。コーチかなと思って見ていたら監督さんだったのか。


「雷門中サッカー部の…」


ちらりと私を見て、吹雪くんは困ったような視線を送る。話をすることの了承を貰いたいのだろうか。別に気にしなくてもいいのにと思って私は頷く。



小さい手に引かれて校舎を出る。「莉緒ちゃん莉緒ちゃん」とはしゃいでいる紺子ちゃんを見るときっと雪合戦が楽しみなのだろう。残念ながら私は雪合戦には参加しないのだけど。


後ろを歩いていると、吹雪くんの前を歩いていたマネージャーの女の子が階段で足を滑らせてしまった。咄嗟に手を出そうとするが、リーチの差で吹雪くんがその女の子を受け止めた。


「気を付けて、階段は滑りやすいから」

「ありがとうございます」


私が助けたかったと思ってじっと吹雪くんを見るとなんとも余裕の笑を返してくれた。流石全校の女子を虜にする吹雪くんである。ここまでくると流石に私も脱帽だ。帽子は被っていないけど。


地響きのような音が聞こえたので上を見上げると屋根から落ちた雪で小さな雪崩が起きていた。あっと気づいたときには足元に小さく丸くなる吹雪くんがいた。彼に目線を合わせて震えている背中に手を置く。


「大丈夫よ吹雪くん」


私が言うと吹雪くんの震えは少しずつ収まっていった。紺子ちゃんが「そうそう、屋根の雪が落ちただけだから」と優しく宥めると顔をゆっくり上げた。


「…なんだ、屋根の雪か…」


そう言いながら握っているマフラーを見て、小さく胸が傷んだ。私も吹雪くんと同じように必然的にお揃いになったマフラーを握っていると喜多海くんが後ろから肩を優しく叩いてくれた。


「…いつ来たの」


気になったことを聞いてみると少し逃げるように先頭の白恋イレブンの中に混ざっていった。あれほど目覚ましはセットしろと毎日のように言っていたのに。痛くなる頭に手を添えて白い息を吐く。



皆の楽しそうな雪合戦をする声を聞きながら私はかまくらで餅を焼く。やはり人数が多いと燃えるみたいでいつもより皆が楽しそうに思える。そちらに耳を傾けながら隣に座る吹雪くんを見た。雷門中の吉良監督が何を話すのかじっと待っているようだった。


「――私たちはエイリア学園を倒すために仲間を集めているの」

「仲間を…」


呟くように吹雪くんが言うと、吉良監督に「音無さん」と呼ばれたさっき階段で滑ったマネージャーの子がパソコンで校舎の破壊された画像を見せてくれた。


「こういうことが起きているの、知ってるだろ」


円堂さんがそう言うと吉良監督は続けて淡々と話をする。


「数日前からエイリア学園はこの北海道で中学校を破壊しているわ」


餅を焼きながら話に耳を傾ける。ちなみに今焼いているのはサッカーボールの形をした餅だ。ボールの柄と同じように海苔を切っていく、これがまた難しい作業だ。


「俺たちは奴等を倒すために地上最強のサッカーチームを作ろうとしているんだ。だから吹雪、お前に会いに来たんだぜ」

「…地上、最強…」


円堂さんの口から聞いた聞きなれない言葉を小さく復唱すると、吹雪くんも呟くように復唱した。どんどん現実味が無くなってくる内容が頭に入ってくる。


「あなたの噂は聞いたわ、噂の実力の持ち主なら私たちと一緒に戦って欲しいの」


丁度餅が出来たところだった。その言葉に餅を一瞬落としそうになったがなんとか維持する。吹雪くんはそんな非現実的な話を静かに聞いていた。


「あなたのプレー、見せてもらえる?」


表情に変化が無かった吹雪くんはその言葉を聞いて爽やかに笑って見せた。私は円堂さんに餅を差し出して食べるように促しながら吹雪くんの「いいですよ」という返答を聞いた。


かまくらを最後に出て少しもやもやした気持ちにマフラーを握った。彼は本当に行ってしまうのだろうか。今までずっと一緒だった仲間を潔く送り出すことが出来ない今の私には少し腹が立った。











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