君の手を引いて走れ!

□部活編
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キラキラと目を輝かせた円堂くんが私の前に立つ。暫くなかったから安心していたのだが、彼はめげたわけでは無かったようだ。


私は眉間に皺を寄せて彼を威嚇するがただの馬鹿には通じなかったようだった。大きな声で、元気な笑顔で名前を呼ばれる。またアレだろうか。私の答えは決まっているというのに。


「なまえ!サッカーしようぜ!」

「しません」


用意していた答えを円堂くんにそのまま即答すると、丁度良いタイミングで朝のHRが始まった。



05

「なー頼むよー!」

「いやホントマジでこれマジで無理」


今日はしつこく円堂くんが絡んでくるので私の表情は冷め切っていた。隣のゴーグルメガネくんが状況を読めず円堂くんに質問をする。


「何故コイツにサッカーを?陸上部ではないのか?」


ごもっともですゴーグルメガネくん。円堂くん余計なことを言うなよという思いを込めてガン見する。


「いやー実は前に掛け持ちしてもらったことがあってさ」

「前…?」

「サッカー部を立て直す頃だな」


ゴーグルメガネくんが密かに眉を潜めていると、その会話にいつの間にか教室に来ていた風丸くんが参戦する。いやどこから湧き出たんですか美形だから許すけど。


「陸上部からの助っ人として俺となまえがサッカー部と掛け持ちしてたんだ」


あの日を懐かしむように言う風丸くんにツッコミどころはたくさんあるが、たしかに私がサッカーをしていた時代はかなり昔のことのように思える。


「円堂に言われて渋々、な」

「いや風丸くんに誘われてウキウキの方が正しいかな!」


発言を否定するように言ってみれば風丸くんの笑いが帰ってきた。円堂くんはなにやらゴーグルメガネくんに力説をしている。こっちの話も聞きながら円堂くんのマシンガントークも聞くなんてあなたは聖徳太子か。


「とにかく、風丸くんも得意の円堂ワールドで引き抜いて!私はそんなにホイホイ引き抜かれませんからね!サッカーやろうぜ詐欺反対!」


ビシッと指を指すように円堂くんに向かうと円堂くんはしょんぼりと寂しそうにした。あれれ、なんかわんこが見えるよ…耳と尻尾が垂れてる…。


「…サッカー部に入れば楽しいのになぁ…アイツとも仲良くなれるのになぁ…」


ボソボソと小さい声でいじけ始めた円堂くんのその言葉を私は聞き逃さなかった。風丸くんと談笑しているゴーグルメガネくんを確認して私は円堂くんに小さい声で詰め寄る。


「アイツって…もしかしてゴ、ゴーグルメガネくん…?」

「(ゴーグルメガネ?)あ、あぁ」


まさか、サッカー部に入るとそんな特典がついてくるとは。少し、いやかなりこれは揺らいでしまう。実はあまりお友達的に進展がなかったものでそろそろ別の手を考えようとしていたところだった。


「ちょっと…考えときます」


そう言うと円堂くんは飛び上がって(どこにそんな元気を隠していた)私の肩を大きく揺らし始めた。あんまり力強く揺らすと吐くから!吐く!


風丸くんも嬉しそうに笑うもんだから私は「実は入る気ありません」とか言える状況じゃなくなってしまった。


ゴーグルメガネくんがまだ状況についていけてないような不思議な顔をしていたのを私は視界の隅で見逃さなかった。


















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