君の手を引いて走れ!

□部活編
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前回のあらすじ

サッカーボールが飛んでくる→拾いに行く→ちょっと遊ぶ→調子に乗ってスペシャルシュート(仮)を打つ→ゴーグルメガネくんにバッチリ見られる→私言い訳思いつかず←(イマココ!)



09

今のシュートは…って言われたぞ。これは絶対見られたし今ここで変な言い訳しても墓穴を掘るだけだろうし。どうすんだ私。


「こ、このサッカーボールは君のかい」


ああああ違う違う。そんなどっかの貴族みたいな言い方じゃなくて、神みたいな言い方じゃなくて。もっとこう違う言い回しがあればよかったんだけど。


「ああ、円堂が思いっきり蹴ってしまってな」

「あっはい、どうぞ」

「悪いな」


変な言い回しだったが、思ったより話題を反らせたのではないだろうか。このままゴーグルメガネくんがこのことを忘れてくれたらいいのだけど。そう思ってサッカーボールを手渡すと思った通り忘れてくれたみたいで元気に手を振っている円堂くんの方に走っていった。


それにしてもさっきのシュートのネーミングは微妙だったと思う。私は元々居た木陰の方に戻ってまた男子のサッカーを横目で見る。


すると、ゴーグルメガネくんが(指定ジャージ似合わないなぁ)円堂くんや風丸くんに何か話しかけているではないか。たまにこっちを向きながら話している様子を見るともしかしてこれは私のことを話しているのか。目が合いそうになる寸前で目線を逸らして女子の方に集中する。


「なまえちゃん」

「秋ちゃん!お疲れ様」


一人百面相をしていた私にドッヂボール終わりの秋ちゃんが声を掛けてくれた。体育の時はタオルを持ってきて良いので皆タオルを見学の私に預けてから行く。柔軟剤の良い香りのタオルだらけでなんだかテンションが上がる。その中の誰かさんを連想させるオレンジ色のタオルを秋ちゃんに差し出すと笑ってくれた。


「負けちゃった、なまえちゃんは怪我大丈夫?」

「あ、今日のはおサボりなんだ、部活にはちゃんと出るよ」

「良かった、皆心配してたのよ」


そう言って微笑む秋ちゃんはお母さんを想像させる。雷門の母と言ったところだろうか。皆というワードに私が首を傾げると男子のサッカーを見ながら秋ちゃんは口を開く。


「円堂くんも風丸くんも半田くんも…、それに鬼道くんも、皆なまえちゃんが部活しないで帰ってるの見てるからそれで気になってたみたい」

「そ、そうだったんだ…」


…キドゥって誰だ。えっキドゥって人誰ですか。3年生だろうか。私の知らない間にまた新しい部員が増えたんだなと思いながら、さっき秋ちゃんが言ったキドゥさん以外に妙に引っかかる言葉があったのを思い出す。


『皆なまえちゃんが部活しないで帰ってるの見てる』?


「えっちょっ秋ちゃん、え、皆私放課後部活してないの知ってるの!?」

「だってなまえちゃん…木陰からずっとサッカー部の練習を「ああああああ!」」


見られてたなんてそんなまさか。私は頭を抱えるようにしてその場に沈んだ。秋ちゃんは笑ってくれてるけどこれは一大事じゃないだろうか。あの円堂くんはきっと私がまだサッカー部に未練があって気になっていると思い込んでくれているかもしれない。これはマズイ。


実際気になってはいるけど風丸くんのように華麗に転部までは考えてはいないのだ。あのサッカー馬鹿はサッカー大好きだからきっと私に円堂マジックでも掛けにくるつもりだろう。


さっきニヤニヤしながらこっちを向いていたサッカー部を思い出す。まさか、そんな。サッカーボールなんて蹴らなきゃよかった。


「やらかしたあああああ!!」


私の小さな悲鳴は5時間目の終了のチャイムにかき消されてしまった。



















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