君の手を引いて走れ!

□サッカー編
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飛びそうになったチケットを握りしめて大きなスタジアムの中に入る。そういえばサッカー部を立て直す辺りはこんな大きなスタジアムで試合なんて夢のように思っていたっけ。


観戦しやすいように一つに結った髪は私がサッカーボールを追っていた時と心無しか被って見えた。そんな自分を鼻で笑うようにして観客席の方に進む。


大きな緑の芝生のサッカーコートが視界を占めると私は大きく息を飲んだ。ポニーテールが風で揺れた。



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「観に来て欲しい」そう間接的に聞いた私はホイホイこんなところまで来てしまった。彼の予想通りになったであろうこの展開にはなんだか悔しいが今の雷門イレブンは気になるので目をつむろうと思う。


大きなスタジアムで1人でいるのは少しドキドキする。なんだか落ち着かないのでトイレにでも行こうかと席を立つ。


多分これが間違いだったのだろう。なんとかトイレまで行って、用を足して外に出た時にはもうここは何処か分からなくなっていた。


「えっと、こう来たから逆方向に行けばいいのかな?」


普段の授業態度を見てみれば分かる通り、私は頭はあまり良くはない。それと地図は回さずに見る派だ。ぐるぐると同じようなところを何周かしたところで良くわからないところに出た。


観客席かと思って顔を出すとそこには緑の芝生が間近にあった。慌てて首を引っ込めて階段を下りる。まさかフィールドに着いてしまうとは。よく警備の人が気付かなかったなと思っているとそういえば自分は変な道を通ってきたのだと思い出した。


ここからどうやって戻ればいいのだろうか。ぐるぐると考えながらその場に座り込んで気持ち携帯でスタジアムの見取り図を調べる。


そんなことをしていると後ろから「おい」と声が掛かった。警備員さんに見つかったと思った私は大きく肩を揺らしてその場から逃げようとする。が、肩を掴まれてしまったため逃げることが出来なかった。私はゆっくりと後ろを振り向く。(これ前にもあったような)


「――なんだ、みょうじは迷子か?」


天使が現れたと思った。ため息混じりで鼻で私のことを笑うのはゴーグルメガネ…否、本日はゴーグルマントくん。今日もアメリカンなドレッドで自己主張が激しいです。


私が余程ニヤニヤしてたのだろうか、彼は肩に置いていた手を離して観客席までの行き方を教えてくれた。流石紳士と言ったところだろう。


「あ、ありがとうございます」

「…来たんだな」

「え?」


頭の中にインプットしてお礼を言いながら頭を下げると時間差で落ち着いた声が降ってきた。私は首を傾げてそのまま顔だけを上げるとゴーグルマントくんは口だけ笑っていた。


「サッカーをやる気がないと聞いた」

「あー、それは私が陸上部だからで…」

「嫌いになってないようで、良かった」


その言葉を聞いて弾むように状態を起こすとゴーグルマントくんは既にフィールドへの階段を上っていた。追うように目線をやると、彼はフィールドを背に私の方を振り返る。


「なんで、」

「お前が、円堂も認める『サッカー馬鹿』だと聞いたからな」


青いマントをはためかせて再びフィールドへ戻るゴーグルマントくんの背中が、大きく見えた。その背中を見ながら私は少し笑った。


あのサッカー馬鹿に、まさか自分が『サッカー馬鹿』なんて言われてたと聞いたらもう笑うしかない。ゴーグルマントくんに教えてもらったルートを思い出して私は観客席に戻った。



















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