君の手を引いて走れ!

□サッカー編
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前回のあらすじ

バスを乗り間違えた→一周して戻ってくる頃には逆に観客もいなくなっていた→降りた頃に風丸くんから電話→ちょっと声が違う(声変わりかな)→元気に電話に出て状況説明する→声じゃなくて口調まで変わって…あれもしかしてこれゴーグルマントくん→電話切られる→やらかした←(イマココ!)



19

私の今の状況なんて知らないような顔でサッカー部がスタジアムから丁度出てきた。トロフィーを持った円堂くんと最初に目が合って危なく彼はトロフィーを落としかけた。危ない。


そのままタックルされそうな勢いでサッカー部に揉みくちゃにされる。よかったね声を掛けてあげたいところだが携帯を握り占めたままの私はもう開いた口が塞がらなかった。


ゆっくりと後を追うようにしてスタジアムから出てきた風丸くんとその後ろのゴーグルマントくんを発見(今日もジャージ似合わないなぁ)して顔がサッと青くなった。円堂くんが横で心配して背中を撫でてくれるんだけど私吐かないから。


「あ、あの、すいませんでしたあああ!」


ゴーグルマントくんと目が合った瞬間に勢いよく頭を下げて謝るとどよどよと周りがする。「またなにかやらかしたのか」といった雰囲気に私はとても悔しいです。


「風丸の携帯で電話をしたのは俺だ」

「はい!知ってます!すいません風丸くんだと思ってべらべら喋っちゃって…」


風丸くんの爆笑してる声が聞こえて心の中で畜生と思う。でもきっと爆笑している風丸くんもイケメンなんだろう。「気にするな」というゴーグルマントくんの声で私は顔をゆっくりと上げた。目が合うのはサッカーボールを差し出すゴーグルマントくん。


「サッカーしようぜ、ですか」


私がそう言うと呆れたようなため息がいくつか聞こえた。サッカーしようぜとは違ったようだ。差し出されたサッカーボールを受け取るとそこには私が描いたであろうあのマークがあった。


「こ、これ…」

「忘れ物だ」


稲妻のマークを描いた新品のサッカーボールがそこにはあった。確か秋ちゃん達を警備員から助けようとしたときに使ってしまったハズなのに。拾ってくれたのだろう。


「ありがとう、ございます…!」


ゴーグルマントくんに向かってそうお礼を言って、ぐるりと私を囲う雷門イレブンに視線をやる。


「それと――優勝おめでとう!」


サッカーボールを抱えた私は上手く笑えているだろうか。染岡くんや半田くんが視界に入ってなんだか懐かしい気持ちになる。自分はあのフィールドに立つことは出来なかったけど、同じ夢を追いかけた仲間がこうして日本一になれたことがとても嬉しく思えた。


わっと円堂くんに手を出された。サッカーやろうぜだろうか。私はボールを抱えていない方の手で握手をしようとするが逆手だ。まさかの。


だが円堂くんは利き手を譲らないようだった。風丸くんが隣で苦笑いをして「グータッチでいいだろ」と言うと頑固な私達は笑ってグータッチをした。


「お前も連れてったんだぜ」


そう言われて差し出されたのは自分が今持っているサッカーボールと同じ、否、それよるボロボロの稲妻のマークが描かれたサッカーボールだった。見覚えのあるそれに視界が歪んだ。


「それ…まだ持っててくれたの」


私がそう言って古いサッカーボールを撫でると染岡くんが「当たり前だろ」と言って笑ってくれた。このサッカーボールはフットボールフロンティアに出ようと目標を掲げた時に円堂くんにふざけてあげたものだった。


くるりと円堂くんがボールの裏を返すと『雷門中が、優勝しますように』と小さく私の字で描かれていた。何故か円堂くんがそれ以来ずっと部室に飾ってくれていたこのボールに、私がサッカー部を辞める時に、こっそり書いたものだった。


それを見て言葉が出なかった私の肩を風丸くんが叩いて「これ見つけたとき嬉しかったよ、なまえがサッカーを好きなの知ってたから」と言ってくれた。泣かせに来る気か。


「なまえちゃん、あなたもサッカー部の一員だったのよ」

「秋ちゃん…」


泣いたら負けな気がするけどこれはもう仕方のないことだと思う。秋ちゃんと風丸くんたちに慰められながら、少し泣いた。この日は雷門のユニフォームみたいに青い空の日だった。



















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