君の手を引いて走れ!

□サッカー編
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近くまで送ってくれるという彼等に一度は断ったのだが弟が一緒に帰りたがったので少し甘えることにした。


帰っている最中に次の大会も観に来てくれるかと風丸くんに聞かれたときは流石に苦笑いしか出来なかった。彼は気付いていたのか。


話しているのは前を弟と歩く円堂くんには聞こえてなかったようで、耳打ちで「次はメガネしてこいよ」と言われてスタンドの方で私を発見することが出来た風丸くんには敵わないなと思った。



14

「今日はホントありがとう、大会で疲れてるのにごめんね」


そう言って少し申し訳ない気持ちになっていると、円堂くんは「大丈夫」といつもの笑顔で笑ってくれた。先に弟を中に入れて玄関先で2人を見送る。


「なまえがサッカーやっててちょっと安心したよ」

「えっなんで」


風丸くんが帰り際に私に声を掛けた。陸上部で1年の時から一緒だった彼は今はジャージの中にはサッカー部のユニフォームを着ていることだろう。


「もうあれっきりで辞めたかと思ってたから」

「あー…」


11人部員が揃ったある日、朝一で部室で朝練帰りの円堂くんにユニフォームを返した時のことを思い出す。皆に止められたけど円堂くんに「約束だから」と言うと押し黙った。


隣で自転車に足を掛けた円堂くんが私の方を振り返る。大きなカバンにはキーパーのユニフォームが円堂くんらしくぐしゃぐしゃにして入ってるのだろう。パンパンになったカバンに背負われずにいる彼は中々様になってきたのではないかと思う。彼がゆっくりと口を開くのを私は目で追う。


「サッカー部に戻る気が無いのはこの前ので分かったけどさ、またサッカーしような」

「そうそう、まぁ俺の疾風ダッシュには付いてこれないと思うけどな」


風丸くんが少し茶化したように言うと私は気が楽になって少し笑う。「今度、やろうね」それだけ言って手を振って家の中に入ろうとした。


「次の試合!決勝戦だから!」


ドアが締まりそうな時に円堂くんが叫んだ。私はびっくりして彼の方を振り返るとそこには笑顔の2人が居た。私もそれに釣られて笑うとゆっくりと戸が閉まった。


弟が玄関で待っていたようで私が靴を脱いでいると上から呆れたような声が降ってきた。上を向くとさっきの楽しそうな表情とは打って変わって冷めた顔が。


「姉ちゃん、なんでそんなニヤニヤしてんの」

「うっさいですよ」


そう言いながら自分の顔に手をやると少し緩んでいるような気がした。その日の夜に風丸くんからメールが来ていて大会の日時を知らせてくれた。久しぶりの感覚にちょっとだけドキドキしながらその日は寝た。



















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