電話が掛かってきたのはその日の夜だった。雷門の新しい監督だと名乗る女性からだとから聞いて私は眉をひそめた。雷門の監督が私に何の用なのだろうか。
『みょうじなまえさんね?』
次に彼女の口から出たのは驚く言葉だった。私は持っていた受話器を落としそうになりながら耳だけでその監督の話を聞いた。
『――あなたの力が、必要なの』
22
雷門中が私がバスから降りたあの後すぐに破壊されたのを知った。自宅待機と担任から連絡があったのがついさっきの事だった。サッカーによって破壊された校舎を今中継で弟と見ていたばっかりだ。
『今回の襲撃で負傷者が出たの』
「それで、私に…、」
『このままじゃ雷門は戦えないわ、近々全国から新しいメンバーを集めて戦いに挑みます』
元々私がサッカー部にいたことを、この監督は調べたのだろうか。少し迷った。今更サッカー部でもないのに私なんかが参加してもいいのだろうか、しかも女が。確かに負傷者が出てメンバーが少ないサッカー部の力にもなりたいが、皆のように一生懸命サッカーをしてる中で私が行っても迷惑にならないだろうか。
「でも私は…っ、もうサッカー部じゃ…」
『――…サッカー部ではないのは知っているわ。でも、あなたの実力は良く聞いてる』
「……実力、」
誰に、とは言わなかったが、きっと皆にでも聞いたのかなと思った。「実力」という言葉を強調させて言った監督は私がちっぽけなちょっとサッカーをかじったくらいの中学生だと知っていて頼んでいるのだ。
『遅くても明後日には経つ予定よ、あなたが雷門に現れるのを待っているわ』
そう監督が言うのを聞いて電話を切った。振り返ってテレビを見ようとすると、後ろには弟が立っていた。
「…姉ちゃん、サッカーやんないの」
「え、」
「サッカーやってる姉ちゃん、楽しそうだよ」
「…そっかぁ」
「はい」と言って私はサッカーボールを渡された。某サッカーやろうぜだろうか。私はボールを受け取らないで少しだけ笑った。