君の手を引いて走れ!

□特訓編
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近くの木に向かってボールを力強く蹴る。跳ね返って戻ってくるボールを足で受け止めて、私は息を吐いた。違う、全然思っているのと違う。大きく木を揺らしたがそれだけじゃ足りない。


「もっと、もっと強くならないと」


まだ息の荒い内に、私の持っている数少ない必殺シュートを大きな木にぶつけると、音を立ててその後ろの木を巻き込んで倒れた。月が私のことだけを照らしていて、なんだか何処にいても見張られているような不気味な気分だった。



41

青い空に円堂くんの元気な声が響き渡った。雷門のユニフォームに身を包んだ吹雪士郎くんを向かい入れて初めての練習が始まる。


円堂くんが「白と赤のチームに分かれてコンビネーションの練習をするんだ」と教えると吹雪士郎くんは「面白そうだね」と言った。


「吹雪君、あなたにはFWをお願いするわ」


そう瞳子監督が言うと吹雪士郎くんは少し複雑そうな顔をした。私は昨日のかなり一方的に先陣を切っていた吹雪士郎くんを思い出して、ちょっとだけ不安になる。


試合が始まると我らが風丸くんが鬼道くんからボールを奪って上がっていく。私は風丸くんと同じチームなので、彼の少し後ろを追うように走った。風丸くんのボールは横から吹雪士郎くんに奪われてしまった。


私は急いで方向転換をして彼の前、つまりDFラインまで一旦下がってから彼に向かって駆け出す。風丸くんが奪おうとしたが、それは叶わずそのままゴール前までボールを誰にも渡すことなく運ぶ吹雪士郎くんに苦笑いが溢れた。


「…1人でサッカーやって、楽しいのかな」


どんどん加速して吹雪士郎くんの目の前まで来る、彼はボールを渡すまいと少しフェイントを掛けようとしていた。その吹雪士郎くんの横を彼より速いスピードで通り過ぎると、一瞬彼は驚いたような顔をした。


通り過ぎた時にはもうボールは私の足元にある。後ろを振り返らないようにそのまま上がり、風丸くんにパスを出すがシュートの体制に風丸くんが入ると吹雪士郎くんにボールを奪われてしまった。


そのままの距離でシュートを決めた吹雪士郎くんには少し尊敬の眼差しを送る。いやーまさかあそこからシュートを打つとは。私もあれくらい大技決めてみたいものだと思っていると、グランドに染岡くんの声が響き渡った。どうやら彼のやり方が気に入らなかったようだ。


「吹雪!一之瀬も鬼道もパスだせって言ってるんだからパスぐらいしろ!」


染岡くんの言っていることは一理あると思う。確かに皆が追いつけないくらい足は速かったけれどサッカーはチームプレイだし、もし皆がいなかったら誰が吹雪士郎くんにパスを出すのだ。


「そういう汗臭いの嫌だなあ」なんて言っている吹雪士郎くんにもう染岡くんの怒りゲージは一杯だと思う。その辺にしておいてくれないと後から彼への気遣いが大変なのだが。


彼等が集まっている中央に足を向けて見れば、吹雪士郎くんの「風になればいいんだよ」という声が聞こえてきた。風と言えば陸上部ではないのか。出番かと思って腕まくり(もちろんユニフォームを巻くるのだからかなり寒い)をすると一ノ瀬?くんに止められた。見てて寒いらしい。









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