近くにいたレーゼのかすれた声が私の耳に届いた。どうやら私にしか聞こえないように話しているらしい。
「…お前、何故あのシュート技を…」
「シュート技…?」
「あの技は、流星ブレードは、あの方の…」
あの方というのがイマイチ誰か分からないが、どうして私が流星ブレードを打てることをレーゼが知っているのか不思議でならなかった。
「…あれは、小さい頃に教えて貰った技で、それよりなんで…」
なんで私の必殺技を知っているの、そう聞こうとしたが辺りに出てきた黒い霧でそれは叶わなかった。そこから現れた新しい宇宙人。レーゼ達ジェミニストームは上司のデザー…ト、ム?様によって消されてしまったのだ。
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これで終わりだと思っていたのに、皆の顔に動揺が見られる。レーゼの上司のデザーム様はイプシロンというチームのキャプテンのようだ。聞きなれないカタカナの単語に首を傾げていると鬼道くんが後で紙に書いて教えてくれると言ってくれた。かなり優しい。
解散した雷門イレブンを追い掛けて風丸くんを探す。やっと見つけた彼はなんだか浮かない表情をしていた。
「(試合で疲れてるのかな…)」
本当は部活でやっていた走り込みのメニューの改善したので風丸くんから意見を貰おうと思っていたのだが…残念。
京都の漫遊寺中にイプシロンから襲撃予告が出たので明日にでも北海道を立つらしい。本当にヒーローみたいだなと苦笑いする。吹雪士郎くんも仲間になったし、ジェミニストームにも勝ったし、雷門も力を付けているのではないだろうか。
それにしても、ジェミニストームより上のチームがまだいたなんて。セカンドの次はファースト、…それじゃあその次は?――考えるのはやめよう。
ストーブの前で温まった後、少し冷えた廊下に出ると遠くの方から声が聞こえてきた。もう皆寝てしまったと思ったのに。
「――…じゃない!」
「――…だが、…」
青いマントがここからでも見えた鬼道くんと音無さんが話しているようだ。あれ、音無さんって1個下だよね?なんでいつもみたいに敬語で話さないんだろう。少し悪いと思ったが影から2人を覗くことにした。
「もう!はっきりしてよ」
「その件は…俺にも良く分からないんだ」
「頭が硬すぎるのよ!」
いじらしいと言ったようにキーッと腕を振り回す音無さんに鬼道くんは眉間を抑え、ハァ、とため息を吐いた。
「春奈…」
「とにかく、無自覚ってのはやめてよね!」
「そ、そういうつもりじゃない」
春奈、そう呼ばれたのは音無さん本人で。音無さんも当たり前のように鬼道くんと話しているのでもしかしてこれを知らなかったのは私だけなのでは。
それにしても転校してきたばっかりなのにあんなに皆と打ち解けているは疑問だったのだが、そうか、そういうことか。あの帝国からの転校生でも、部内で知り合いがいれば好感度は上がるだろう。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
――2人が付き合ってるなんて。壁から少し顔を出した私は、鬼道くんが音無さんに優しく微笑んでいるのをしっかりと視界に収めてしまった。鬼道くんもいつもあんな風に笑えば年相応な感じがするんだけどなあ。
自分の少しもやもやした気持ちは気のせいだと思った。