シリーズ

□風丸さんと結婚しました
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部員の中からひょっこりと小さな見知った顔が出てくる。後ろの方でドリンクを飲んでいたのだろうか、今まで気づかなかった。


「あれ、なまえさん!」

「天馬くんたち、お久しぶり」


え?天馬と知り合い?みたいな空気の中で少し苦笑いをする。守が目が回ってきたところでやめさせて、みおちゃんと守も皆の方を向かせた。


「えっと、なまえさんは監督と…?」


天馬くんがおずおずと聞いてきたのでその誤解に返答しなければと口を開こうとする。すると上から降ってきた声でそれは声にならなかった。


「なまえさーん!!」


顔を上げて河川敷の上を見るとそこには春奈ちゃんが手を振っていた。鬼道くんも後ろに見えることから練習には遅れてきたのかなと思った。最近春奈ちゃんにサッカー部の様子を聞いていたので久しぶりに見る鬼道くんの髪型以外には特に驚かなかった。


春奈ちゃんは滑るように河川敷に降りてきて、守の腕の中にいたみおちゃんを見て絶句する。遅れてきた鬼道くんも我が子を覗き込んで少し笑った。


「大きくなりましたねー!前会ったときはこんなんでしたよね、こんなん!」

「そんな小さくはないだろう。…みょうじに似ているな」

「髪の色は風丸さんですけどね!」

「…風丸…?」


ドレッドのサングラスを目の前にしてもかなり嬉しそうな我が子には少し驚く。楽しそうにみおちゃんとハイタッチをしている春奈ちゃんは流石先生だなと思った。取り残されたように呟く選手にそういえばと振り返る。


「初めまして、風丸なまえです。そして守に抱っこされてるのはうちの子のみおちゃん。守と春奈ちゃんと鬼道くんがお世話になってます」

「風丸って…もしかして」


後ろの背の高いゴールキーパーのユニフォームを着た男の子が考え込むように呟く。不思議な髪型だなぁと思って鬼道くんと少し比べると嫌な顔をされた。変わっていないようで。その呟きを拾うように元気に守が答えた。


「お!お前風丸を知ってるのか!」

「プロリーグの、風丸さんですか?」


キーパーの子が自信なさそうに言うと周りからは「ああ!」と声が上がった。天馬くんは「あの風丸さんですか!」と興奮している。一郎太はここでも人気らしい。


後ろで守と春奈ちゃんがみおちゃんをどっちが抱っこするかで揉めている。その間みおちゃんは鬼道くんの周りをぐるぐると回っていた。なにやってるんだ。


「ごめんなさいね、練習の邪魔しちゃって」

「大丈夫です」


私が謝るとキャプテンマークを付けたウェーブの髪の子が出てきてそう言ってくれた。賑やかな後ろを振り返って「守、」と言うと静かになってくれた。


少し遊んでもらった後、春奈ちゃんと今度は鬼道くんの家でお茶会をしようという話になった。多分鬼道くんのことだから送り迎えくらいしてくれるだろうと2人で考えた。本人はみおちゃんに遊ばれていたようだが。


守と選手の皆にお礼を言ってその日は河川敷を後にした。「みおちゃんたくさん遊んでもらってよかったね」と言うと小さな手に力を込めて嬉しそうに頷いた。



大人気無い大人



















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