シリーズ

□正しい君の抱きしめ方
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経理学の参考書を抱えて駅前を歩く。久しぶりにこんなところまで来たなあ。可愛いお店が並んでいるのを見て歩く。ウィンドウショッピングってやつだ。


想像力の豊富なお金のないただのフリーターにはもってこいじゃないか。


あー美味しそう。そう思ってケーキ屋さんの前で立ち止まっていると、声を掛けられた。


「――なまえさん?」



甘ったるい誑かし




目の前には学生服のヒロトくん。見慣れたそれは懐かしく感じた。雷門高校の制服は私が半年前まで袖を通していたものだったから。


隣を歩いていたお友達?に軽く声を掛けると私の方へ駆け寄ってきてくれた。


「お友達と一緒だったのに、お邪魔しちゃった」

「いいんです、丁度なまえさんの話でしたし」


あんな好青年達の暇をつぶせるような私の話なんてあるんですか。ヒロトくんの後ろにいる少年達に軽くお辞儀をするとヒロトくんに止められてしまった。


「社会人は挨拶が大切なんですよ」

「いや、ちょっと今回は勘弁してください」


珍しく頭を抱えるように慌ててる彼が面白くて笑えば、少し拗ねたような顔になった。うん、年相応。


「円堂くん、今日はここで失礼するね」

「おー!ヒロト!またな!」


えんどうくんと呼ばれたバンダナの男の子は元気よく手を振ってくれた。えんどうくんの方が高校生らしくて次にヒロトくんに目をやれば温度差に少し笑った。


「いつまで笑ってるんです」

「えー、ごめんごめん」


ヒロトくんは私の持っていた経理学の参考書の入ったカバンを持って目の前のケーキ屋さんに入っていく。


「あれ、来ないんですか?」

「…いいの?」

「いいんです、食べたそうでしたし」

「そこまで見られてたか」


甘い匂いに誘われてヒロトくんの後を追って店内に入る。参考書は数もあるし、決して軽いわけではないと思うけど。それを軽々持ってるヒロトくんは見た目細くて色白だけど、流石スポーツマンだなと思った。


会計の時には私が財布を出す前にヒロトくんが払ってくれた。彼の背中を見て、なんだか色々たくましいなと思った今日でした。


(あ、シフトはないんですか?)
(今日はおやすみですよ)








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