「そろそろやめないと本当に死ぬんじゃない?」
「銀さんはお前を置いてはは死なねぇぞー安心しろー」
「そういうことじゃなくてね…」
私の目の前でもくもくとパフェを頬張るこの男は、かつて白夜叉と呼ばれていたほど強く、女の子にモッテモテだった。
(最後のモッテモテは本人いわくだが)
「前は戦争でカロリー消費してたからいいけど、今はそうはいかないでしょう。少し運動したら?」
「何?お前が相手してくれんの?ベッドで?」
「え、なんか言った?」
下ネタを適当に流して、目の前の紅茶に集中する。「紅茶じゃなくてジュースがいい」なんて最初は言っていたけど、なんだかんだ言って私の入れた紅茶を飲んでくれるのでありがたい。
「ここは乙女に恥じらうところだろ?まったくお前はいつまで経ってもそうだな」
構って貰えなかったのが嫌だったらしくてぶーぶーと文句をつけながら紅茶をすする。
「仕方ないじゃないの、だって遊女だったんだもの」
当時私は20になるかならないかだった。
戦争が少し落ち着きを見せた頃、表向きは茶屋と名乗っていた私の勤めていた店が天人に襲われて、たまたま近くを通った銀時に助けてもらった。
『女を傷モンにするのには気が引けるな』
私は元々は戦闘向きに身体が出来ていて、多少の事では死ななくなっている。一緒に戦おうかと思い、出ようとすると、この男に力尽くで止められてしまった。
その後、店は半壊で、私は枕の仕事から足を洗った。
「私、男だったらよかったなぁ」
「何、いきなり」
「いや、そしたら誰かさんみたいにモッテモテになれるじゃない」
そう言って私は自分の顔を鏡越しに覗く。
(大分作りはいいと思うんだけどなぁ)
返答を期待していた方向からは何も声が聞こえない。
「…何?どうしたの」
鏡を見るのをやめて、銀時の方を向いて座り直す。
ずっと見ていても開いた口が塞がる様子はない。
しばらく観察していて、飽きてきたなんて思い始めた時、やっと銀時は口をゆっくり開いた。
「…もしかして、嫉妬?」
さて、どうしてくれようか。 身を乗り出した銀時は紅茶を袖で引っ掛けてこぼした。
(後片付けどうしようか)