「…仁王?何、どうしたのいきなり」
俺は目の前のコイツの手を掴んで離さない。コイツは驚いたような顔をしてこっちをずっと見ている。
その、青い目で。
でも、コイツよりも俺の方が自分の行動に心底驚いている。
(こんなつもりじゃなかった)
「……お前さんが、逃げそうじゃったから」
我ながら苦しい言い訳。(これじゃあペテン師の名が泣く)
でも、半分本当。すぐどこかに行ってしまうから、少しでも俺の近くに置いておきたいのだ。
(あぁ)(なんて自己中心的な思考なんだろうか)
「逃げようと思ってないよ」
そう言ってさっきまで座っていた椅子に座りなおす。
その姿を申し訳ないような、でも、うれしいような感情に1人で浸る。
「…行かんの?」
「うん。やっぱ行かない」
笑いながら目線を下に向けるコイツには彼氏がいる。名前は…なんだったか…顔は、普通でどこにでもいるような奴だった気がする。
コイツはあまりそういう奴はタイプではないと思っていたから(自身も俺と同じような雰囲気だし)最初は信じられなかった。
俺とコイツだけしかいない教室。
空はさっきより紅くなっていく。
俺達の距離は近くなっていく (…なんてな)
瞬きをする度にこの空間が夢じゃないのだろうかと思う。