そのダウト、ゴミ箱に。

□2.5つ目のゴミ
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 何故私はこんなところにいるのだろうか。



本来なら学食で優雅にランチを食べている筈だったのに、今はどうだろう。


手にはサンドウィッチとコーヒーが握られている。どれも、今日の帰りにお腹がすいたら食べようと思って持ってきたものだったので量も少ない。




どうしてこうなったかと言うと、理由は簡単だ。


須王にしつこくまとわりつかれたのもあるが、ただ単に学食にいた生徒の人数に吃驚してしまっただけである。他の人が聞いたら「小心者」だとか、「チキン」だとか言うだろうがよく考えてみて欲しい 。

アキは学校に行っていなかったので大人数を見るのは久しぶりだということに。



元々あまり得意ではなかった所為もあるが、こればっかしは中々慣れないというものだ。


外で昼食を取る人は中々いないらしく、周りを見てもアキしか見当たらなかった。視界の端っこにこっちに向かって走ってくる少し茶っぽい金髪が見えたような気がしたが、これは気のせいだと思いたい。




「七瀬君じゃないか!!」



いかにも偶然を装っているが、確実に環は狙って来たのだろう。そこまでして、何故アキと話がしたいのか疑問だ。


「偶然だね、どうしたの?」


とりあえず、向こうがとびっきりの笑顔でこっちに向かってきたので少し引いた。こんなに綺麗な外見に合っていない鼻水に正直引いたのはここだけの話だ。


「外は寒いだろう?君も中で食べないか?」

「…そうしたいんだけど、実は人混みがあまり得意じゃないんだ」




そうだ。外は凄く寒い。雪はもう無くて日光も暖かいがまだ1月である。アキはカシミヤのマフラーで顔半分は隠しているが、それでも寒い。


アキが人混みが苦手なことを打ち明けて諦めてもらおうと思ったが、これが間違いだったのだろう。




「それじゃあ温室に行かないかい?実は公園があって、そこのベンチがとても大きいんだ!」

「えっ…」



そう言ってアキの手をぐいぐい引っ張る環の顔はなんとも残念なことになっていて。ティッシュでも投げつけたくなるような、そんな気持ちになった。



問題はこの手だ。ちょっとこれは不味い。ナツ以外の異性に触られるなんてことはめったになかったのでアキの顔は今は真っ赤なのだろう。この寒さで赤くなったと目の前の須王環が思ってくれると嬉しいのだが…



「ほら、こんなとこにいると風邪を引いてしまうよ」

「あ、そ、それじゃあお言葉に甘えて…」


そう言って立ち上がると環はアキの手を離した。この人…意外と空気読めるんだな…



「こちらだよ」

環がまるで女の子に語りかけるように優しく案内する。それに少し違和感を感じたが、置いていかれそうになったので急いでアキは追いかける。







 着いた先は温室と言う名の植物園。


どこを見ても今の時期には咲いていないだろう花が緑の中から顔を覗かせている。東京ドーム何個分…まではいかないだろうが、それくらい大きい温室で、お金持ちは何を考えているのか分からない。


あまりに広くて、この位置だとベンチがどこにあるのかもわからない。



アキがベンチを捜してきょろきょろすると、さっきまで隣にいた環が既にベンチらしきものに座っていた。




「七瀬くーん!こっちだぞー!」



さっきまで鼻水をすすってた人がこんなにまで元気になるのか、と不思議になる。いつの間にか大きなランチボックスも抱えているものだからこれまた驚きだ。


「ここ、なんだ…」


ベンチに座ってみて分かることがある。それは、ここのベンチが一番見通しがいいというか全体が綺麗に見えるというか。そんな事だが少し感動してしまっていた。


「ここは俺の特等席なんだ!七瀬君も是非ひいきにしてやってくれ」


ベンチをひいきとは可笑しいことを言う。このベンチを使ってくれという事なのだろうか。この人は色々残念な性格なんだなぁと改めてアキは実感する。


「うん」と短く返事を返して、手元の紙袋の中に入っているサンドウィッチを食べ始める。それを見た環もランチボックスのフタを開ける。




なんでこの人はこんなに自分に構うのだろう。もしかして友達がいないのか…否、それは無いな。

こんなに明るいユニークな人なんだから友達の100人や200人余裕だろう。…200人は少し言いすぎたかもしれないがこの人なら余裕だろう。



この外見、財産を切り捨てても友達は減らないかもしれない。それくらい人を惹きつけるのだろう。




「…なんで、須王君は俺なんかに…」



自分で考えても答えが出なかったので、アキは本人に問う。すると環は驚いた顔をして、その後に笑った。


「クラスメイトとは仲良くするものだろう?それに、俺が七瀬君と話してみたかったんだ」

「そ、か…」



 
 この人は、なんとも変な人だ。アキがくすくすと笑うと、「何故笑うのだ!?」と耳元で騒いでいた。


もう少し静かに昼食は取れないものか。でも、その行動ですらもなんだか可笑しくて、アキはまた笑う。すると、環もそんなアキを見て笑う。




 帰ったら資料を訂正しないといけないと思った。須王環は、とても変な人。そう書いてまたアキは笑う。




 今の自分を例えるならなんだろうか。そう、例を挙げるなら、箸が転げても可笑しい年頃。



(友達ってやつ?)(これが?)











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