そのダウト、ゴミ箱に。
□3.6つ目のゴミ
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「お、終わった…」
あれから半年以上。季節は春も夏もすっかり跨いでしまい、いつの間にかアキの誕生日も過ぎてしまっていた。
相変わらず久我関係の連絡は入っていない。父親もそろそろ忘れているのではないかと心配になる。
まぁあの父に限ってそんなことはないのだろうけど。
開店を無事迎えた自らプロデュースした店。狙い通りに女性のお客さんから大好評だった。こうも上手く行くと流石に面白くて仕方がない。
そのパーティーに出席した後、家にフラフラと帰りベッドに横たわる。なんかもう、このまま寝てしまってもいいだろうか…
ジャケットを脱いでネクタイを緩めるとそのまま抱き枕を抱き、眠りについた。
夢を見た。小さい頃の夢を。
初等部の頃だろうか、アキは手作りをしたクッキーを持って大きな道場の前を右へ左へ。うろうろしていた。
お目当ては1つ年上の先輩方。少し前に犬に追いかけられていたときに助けて貰ったのだ。
今日は、そのお礼をと思ってクッキーを持ってきたのだが…
「…あれ、入口ってどこだっけ…?」
道場の周りを何周したのだろうか、中々入口を見つけられず困っていた。
助けてくれた先輩方は有名な人だったらしく、友達に詳しく聞いてみたところ「道場にいる」とのこと。顔と特徴は覚えているのですぐ分かると思って1人で来てみた。
大きな、優しい先輩と小さくて可愛い強い先輩。そろそろ迎えの時間がになってしまうアキは、もういっそのことそこら辺の人にお願いしようかと思っていた。
するとタイミング良く人が通りかかったので声をかける。
「…あのっ」
「何か?」
よく顔を見ずに話しかけたものだから、振り返った少年の顔を見て驚いた。
あの、小さな先輩にそっくりではないか。多分ご兄弟か何かではないだろうか。おずおずとクッキーを差しだす。
「これ、大きな優しい先輩と、小さな可愛い先輩に…」
「…差し入れか何かですか。そういうのは本人に直接…」
「渡して貰えるだけでいいんです!あ、その小さな袋のクッキーどうぞ召し上がってください!!」
ずいぶん時間が危なかったのだろう。アキは押しつけるようにクッキーを預けるとそのまま校門まで走って行ってしまった。
なんなんだあの人…。少年は紙袋の小さな小包を開けてクッキーを口に運ぶ。
あ、美味しい。
「あれ?チカちゃんそのクッキーどうしたの?」
「さっき渡してくれと、黒い長い髪の女の人が…」
「…なるほどねぇ。崇、多分あの子だね」
「…犬に追われていた…」
「お礼に来てくれたんだ。嬉しいなぁ」