中編寄せ集め

□さよなら
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雷門イレブンと皆が集まっているであろうグランドを目指す。少し準備が遅れてしまったが仕方がない。すると空き部屋から出てきた吹雪くんと一緒になった。


「あれ、莉緒ちゃん」

「吹雪くん、それ…」


顔からどんどん下に視線をやると、吹雪くんは嬉しそうに笑って「どう?」なんて聞いてきた。


「似合うわね」


雷門中のユニフォームに身を包んであのマフラーを巻いた吹雪くんと一緒にグランドまで歩いていく。こうやって並んで歩いているのに遠いな、なんて思ってしまう。


やはり吹雪くんは強いチームと試合をする方が楽しいのだろうし、私たちみたいなお遊びサッカーの中では一際浮いた存在になっていた。


「なんかこのまま雷門中サッカー部に入れそうね」


なんて、冗談のようの私が笑って言うと吹雪くんは少し真剣に口を開いた。


「僕は、ずっと白恋中だからね」

「…うん、そうね」


そうだね、なんて言いながら私は吹雪くんが遠くに行って帰ってこなくなってしまうのではないかと思った。いつの間にかグランドに着いていて私は皆と一緒に雷門イレブンの練習を端で見ることにした。


見ていると予想を裏切らないモメっぷりだった。FWの吹雪くんを活かすスタイルの白恋中とは違って、雷門中は皆1人1人が強いから皆でプレーをしなければならない。ボールを奪ってゴールに一人で向かっていく吹雪くんは染岡さんに怒鳴られていた。


「あー…やっぱり」

「…?、どうしたの?」


私が呟けば隣に居た空野くんが拾ってくれた。「モメてるなって」そう言うと空野くんも思っていたようで苦笑いをしていた。


元々FWの私は空野くんの提案で吹雪くんがFWのモードに入ったらMFのところまで下がっている。吹雪くんがDFに専念しているときは得点源が無くなるので、私が前陣を切って仮エースストライカーをやっている。それでこのサッカー部は成り立っていたのだ。


「最初から吹雪くんをFWにってのがね…」

「多分DFもやりたがってるよね」


空野くんの隣からひょっこりと顔出す紺子ちゃんは吹雪くんの良き理解者だと思う。私は小さく頷いた。


吹雪くんの提案でスノーボードをやる流れになったようなので立ち話を切り上げて準備をはじめる。そんなにボードがあったのか不安になるが、皆が使っているのを出せば大丈夫だろう。私は紺子ちゃんと一緒に練習場に雷門イレブンを案内した。


スタンバイしてこっちに向かって大きく手を振る吹雪くんに振り返せば華麗に雪の上を滑り出す。皆が転がした雪玉も綺麗に避けて雷門イレブンは拍手喝采だ。


「吹雪くんは小さい頃からスキーやスノーボードが得意でよく遊んでたんだって。走るよりも雪を滑る方が風を感じるから好きだって言ってた」


紺子ちゃんが吹雪くんを見ながらそう言う。私は付け足すように「速くなればなるほど自分の感覚が研ぎ澄まされていくそうよ」と続けた。


雷門イレブンの皆さんもなんだかやる気を出したらしく滑り始める。最初にしては皆さん中々上手いのではないだろうか。雪まみれになる円堂さんに苦笑いして紺子ちゃんと一緒に雪玉を上から落とした。



この特訓で雷門イレブンは風を感じることが出来たのだろう。その結果はエイリア学園との試合を見て思った。吹雪くんに危ないからと言われて離れたところで試合を見ていた私は、柄にもなく吹雪くんの名を叫んでしまった。それでも傷だらけでサッカーをやる彼はとても楽しそうで、羨ましいと思った。


正式に稲妻キャラバンに参加することになった吹雪くんは今すぐにでも次の戦いに向けてこの北国を立ってしまう。吹雪くんの影響力はチームにも大きく、暫くいなくなる間は私がキャプテンマークを付けることになった。


練習が一通り終わった夕方から私は自主練を始めた。明日には吹雪くんがいないんだなと思うと私は追い詰められていた。自分なんかでキャプテンが務まるのだろうか。大きく蹴り上げたボールは綺麗な軌道を描いてゴールに収まった。


「…ウルフ、レジェンド」


その技の名前を言うと彼の顔が頭を過ぎった。白いマフラーが風で大きく揺れた。まだ戸惑いがある私にはシュートは打てなかった。


「お前のプレイスタイルって、俺と同じだよなァ」


聞きなれた声が聞こえて後ろを振り返ればそこには吹雪くんが立っていた。否、逆毛でオレンジの目…彼だ。


「DFはできないけれどね」

「それって、俺の…」


遮るように「バランスって大事じゃない」と言うと彼は面白そうにクツクツと笑った。


「吹雪くんは、遠いなぁ」

「んだよ、」

「私なんかじゃ、真似するのも無理ね」


不完全なエターナルブリザードを思い出して私は息を吐く。この調子じゃ私にはウルフレジェンドも無理だろうなぁ。すると空気が変わって目の前にはいつもの吹雪くんが立っていた。


「――…君は、僕の持ってないものを持っているよ」


その優しい言葉に少しマフラーに触れて、私は情けなく笑った。








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