『あつやくんどうしよう!しろうくんにどうやってあげればいいの!』
『ウジウジすんな!はやく渡してこい!』
『なんて言えばいいんだろ…』
『たんじょうびおめでとう!でいいだろ!』
『あつやくん代わりに渡してよー!』
『おれがわざわざマフラーおそろいにしたみたいじゃねーか!』
『それはそれで…』
『笑えねーよ』
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吹雪士郎くんへ
お元気ですか。私は元気です。ちゃんとご飯を食べていますか。私は毎日テレビ中継を見ています。吹雪くんを見守ることしか出来ない日々は私にとって苦痛です。
吹雪くんはよく無茶をするので心配です。体に気をつけてくださいね。
今は大変な時期だと思いますが吹雪くんたちに乗り越えられないことはないと思っています。
この前のプレーは内心ヒヤヒヤでした。もうあんな危ないことはして欲しくないです。でも多分吹雪くんはまた無茶をするんですね。私が近くにいたら確実に引張叩いてます。
練習試合も勝っているようで、順調だと耳にします。油断は禁物ですよ。
でも、勝てているのはきっと吹雪くんの活躍あってだと白恋一同喜んでます。吹雪くんは素晴らしいDFで強いFWです。私たちの吹雪くんはそうです。FWばっかりでDFの吹雪くんが見れないのは残念ですがまたアイスグランドが見れる日が来るのを楽しみにしています。
そうそう、必殺技を考案したので今度見てもらいたいです。かっこいいんですよ。
最後に、私がその場にいれないことは残念です。早くまた吹雪くんとサッカーがやりたいので早く帰ってきてくださいね。
それと、ずっと渡したかった物もあります。吹雪くんが受け取ってくれることを願ってます。
米内莉緒より
『――莉緒ちゃん?』
「ふふふふ吹雪くん!?」
クスクスと笑い声が聞こえる。声が少々裏返ってしまったので多分それで笑ったのだろう。あとこういうこと前もあった気がする。
『あのね、後ろ見て』
「後ろ?」
後ろ?今まで通ってきた通学路に何かあるのだろうか。後ろを振り向くと、私は思わず携帯を落としそうになった。
「ふ、吹雪く…」
「ただいま」
「おかえりなさい…!」
青いキャラバンの前に立っているのは紛れもなく吹雪くんで。なんだかたくましくなって帰ってきたなぁとしみじみ思う。窓からは円堂さんやら音無さんやらが手を振ってくれていた。私も振り返す。
「ひと皮向けたみたい」
「莉緒ちゃんは髪伸びたね」
吹雪くんが私の手を握ってくれる。ずっと外にいたせいか私の手は冷え切っていて吹雪くんの手が暖かく感じた。寒くないのかなと思って首元を見るとマフラーを巻いていなかった。
「私、渡したいものがあるって言ったわね」
「うん…?」
自分のマフラーをするりと解いて吹雪くんに巻いてやる。ずっと渡しそびれていたマフラーはあの日からは少し古くなってしまった。私が巻いたマフラーを吹雪くんが触れる。
「あのね、かなり遅くなったんだけど、お誕生日おめでとう」
「誕生日?もうすぐだけど…」
それにこれ、莉緒ちゃんのマフラーじゃないの?そう言う吹雪くんに苦笑いを返した。思えば中学校に上がってから再会したとき、アツヤくんが持ってたのと同じマフラーを巻いてるから凄い驚かれたな、なんて思い出した。
「これね、昔の分なの」
「昔…」
「アツヤくんにはマフラー渡せたんだけどどうしても吹雪くんには渡せなくて…」
「……」
「だから、受け取ってくれるかな…吹雪くん」
急に黙ってしまった吹雪くんの顔を覗き込むようにして伺うと、急に顔を上げて笑った。
「やっぱり、莉緒ちゃんがいないと駄目だなぁ」
意味の分からないと言ったように首を傾げると停止していたキャラバンのエンジンが掛かった。動き出すキャラバンに手を振って見送る。
「だいすきって意味だったんだけどな…」
私も手を振って窓から何か言っている円堂さんに苦笑いをした。吹雪くんのこの呟きはエンジンの音と円堂さんの声で私の耳には届くことはなかった。
(私が吹雪くんと付き合うことになるのも、卒業して高校の先生になって円堂さん達と再会するのもまた別の話)