中編寄せ集め
□瞳が好き
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一応図書委員会だという国語の教科担当の先生からお呼び出しがあったのは数分前で。私は数冊の本を抱えて図書室までの道のりを歩いていた。
あの先生ホントやる気ないんだから。そんなことを思いながら、でもそっちの方が私としてはありがたくも思っていた。
(だって生真面目にやるのってめんどくさいじゃない)
「女子には重いよなーやっぱ先生持ってくわ」
呼び出したのはいいが、本を抱えた私を見てそう言ってくれた先生。意外と優しいじゃないか。図書室まではそう遠くないので申し訳なく断ったが。
それにしてもちょっと重いな。やはり数冊くらいは頼んだほうが良かったのだろうか。
ここで図書委員長が呼ばれないのは、彼女に仕事を任せたくはないかそれとも彼女に会いたくないか。
図書委員長は先生のクラスの生徒のようで、先生の熱狂的な信者だ。図書委員会に入ったのも委員長になったのも先生の為だろうか。健気だ。
私も委員長なんて役職は面倒だし、副委員長という微妙な立場で十分満足している。
(これも押し付けられた役職だが)
学校中でも一際目立つ集団が前から歩いてくるのに気付いた。先生の受け持つクラス、3年Z組だ。
美男美女が揃っているということでも有名だが、恐ろしい程個性が強く協調性の欠片もないということは毎年の体育祭で嫌というほど思い知っている。
当日はもう大乱闘で大変だった。あのクラスの担任は、やはりあの先生ではないとできないと改めて思う。
B組の一般ピーポーの私には高校生活で縁の無い集団だなと思って少し廊下の隅に避けて歩く。
集団と通り過ぎるとき、そういえば彼もZ組だったなと思って探す。すると思ったより簡単に見つかって、その中に居た彼と目が合った。
――もしかして、彼と目が合ったのは初めてじゃないのか。
その鋭い瞳に吸い込まれそうになって息が詰まる。まさか目が合うとは思わなかったので動揺して本をその場に少しばかり落としてしまった。
「わ、」
音を立てて散らばる本をしゃがんでゆっくりと拾い集める。皆見てて恥ずかしい。
「ありゃァ、派手にやりましたねェ…土方さん?」
「…先、行ってろ」
あまり顔を見られたくなくて、俯きながら拾っていると手が伸びて本を差し出す。顔を上げると、土方くんの顔と手がすぐ傍にあった。
「――手伝う」
「え、あっ…ごめんなさい」
その瞳で見つめられると少しドキドキした。見ていられなくて目線を不自然に下にしてしまう。
「それじゃあ…」
無事に全て手元に戻して立ち上がり、土方くんの視線から逃げるようにしてその場を去ろうとする。すると後ろから声がした。
「やっぱ米内には重かったか、先生今からご飯食べるから多串くん手伝ってあげて」
「先生、」
「…それ貸せ」
振り向けばさっき私にこの仕事を頼んだ先生の姿があった。多串くんとはもしかして土方くんの事だろうか。それに気を取られていると抱えていた筈の本が手元から消えていた。
「そんな、悪いよ」
「次は先生が手伝ってあげるからなー、今日は多串くんで我慢して」
「多串じゃねェって何回言えばいいんですか」
そう言って土方くんは歩き出した。私が持った時より随分軽そうに、その本を持つ。流石男の子だなぁと思った。
不機嫌な瞳で睨まれた先生は苦笑いをして食堂へ行ってしまった。その後ろ姿を見て、少し羨ましく思った。
私もあんな風に瞳で視界に捉えて欲しい。なんてことを考えていると土方くんが後ろを向いた。
いつの間にか距離は空いていて、土方くんはもう階段を下りたのに私はまだ踊り場にいた。今行きます。
鋭い瞳で見つめられて、私はまたすぐ視線を逸らしてしまう。
あの瞳、凄くドキドキする。
向けられた瞳