中編寄せ集め

□横顔が好き
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ぼーっとカウンターに座っているとドアの開く音がした。珍しい。誰だろうと思ってそちらに視線をやると栗色が目に付いた。


「本当にいた」


私の方を見てそう言う彼は見覚えがあった。この前廊下で土方くんと一緒にいた…名前はなんて言ったかな。クラスの女の子達が騒いでいたのを耳にしたがあまり興味はなかった。


「此処、案外涼しくていいや」


「そ、そうですか」


ドカっと私の近くの椅子に座る。この人は何をしに来たのだろうか、何やら手持ちは何もないようでただ涼みに来ただけかと思う。


「…お前ェはさ、」

「はい」

「土方さんのことを好いてんのかい」

「――は、」


意味が分からないと言ったように彼を見つめると、少し困ったように眉をひそめた。


「こりゃ、苦労するぜィ…」


私が土方くんのことを好き?いやそんな馬鹿な。実際あまりよく知らないのに、彼を好く要素はどこにあるのだろうか。


(あ、あった)


手と声と瞳。単体に片思いをするのは難しいなと少しばかり悩む。可笑しな道に踏み外しそうだ。彼のことはこれ以外知らない。



「なんで、」


(そう思うんですか)


そう栗色の髪の男子に聞こうと思ったのだが再び扉を開く音でそれは叶わなかった。目の前の男子がニヤリと悪い顔で笑うのを見て誰が入ってきたんだとそちらを向く。


鋭い瞳がこちらを向いていた。心なしか苛立っているようにも見えた。



「おい、総悟」

「なんですかィ」

「なんでテメーが此処に居る。今日は臨時の集会あるって言ったよな」

「そんなモンもありやした」


会話の内容からしてこの男子は集会をサボって此処に来ていたらしい。わざわざサボってそんなに集会に出てくはないのだろうか。集会というのは臨時の委員会集会のことのようだ。


「近藤さんが呼んでんだ、早く行け」

「今いきまさァ」


渋々と言ったように席を立つ男子は頭を掻きながら土方くんが立っている出口へ向かう。出るときに私の方を向いて少し笑ったように見えた。入れ違いでその席に土方くんが座った。



「悪ィな、邪魔して」

「ぼーっとしてただけだから、大丈夫」


さっきのことがあって土方くんとこうして話すのは少し動揺してしまう。あの男子、許さぬ。


先日先生から蔵書してもらった新しい本を忙しいフリをして片付ける。先ほどラベルを付け終わったばっかりなのでこれで晴れてこの本達も図書室デビューだ。


「それ、戻すのか」

「そうだけど…」

「手伝う」


そう言って私の本を半分以上軽々と持ってしまう土方くんに申し訳なくなった。これは私の仕事なのに。


「いいの、委員会とか」

「ありゃ、アイツだけだ」

「そっか」


特に断る理由もなくて手伝って貰ってしまう。正直に言うと人手があるのはとても助かるからだ。土方くんの綺麗な指がひとつひとつ丁寧に本を戻していく。


「…これァ、五十音順になってんのか」

「一応揃えているつもり」

「すげェな」


普通に関心しているようだ。わざわざ揃えた甲斐があった。土方くんにそう言って貰えると嬉しく思えた。


五十音順はスルスルと返していくがアルファベット順になると急に手元が遅くなる。もしかして、英語も苦手なのだろうか。


「私、やろうか?」

「いや、いらねェ」


悩ましげな表情になってゆっくりと本を戻していく。そんな横顔を近くで見て、少し彼を近くに感じた。


横顔の綺麗なラインを傾き始めた太陽が縁を作っている。少し光にあたって透ける髪がとても綺麗だ。



彼が描く一本の線は綺麗で。





真剣な横顔







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