中編寄せ集め
□背中が好き
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夕日も沈んで街灯が道路を照らす。そんな中私は土方くんと2人で他愛もない話をしながら下校中だ。
どうしてこうなったかと言うと、私もイマイチよく分からない。嘘。これは完全に私の所為でもあった。
時は数時間前の図書室。私は温かい日差しにうつらうつらしていた。もう寝てしまうかのギリギリで、私はうっかり気を抜いた。
そう、気を抜いたのだ。そのまま私は深い眠りへとつくことになる。
たまたま校舎内を見回りに来た土方くんに起こされて、気づいたのは7時過ぎ。これは完全に寝過ごした。というか土方くんに起こされるというパターンは何度か経験済みだった。
「ごめんなさい、見苦しいところを…」
「もう暗ェだろ、…送ってく」
「へ、」
そのまま教室に戻って荷物を取りに行き、昇降口で待ち合わせて帰った。駅まででいいと言ったのだがなんでも土方くんの家も近いようで一緒に行ってくれることになった。
「それにしても、なんで土方くんは…」
「風紀委員だ」
「なるほど、」
この前の男子も風紀委員なのだろう。それっぽくないのが少し気になるが。そういえば、彼の名前はなんて言うのだろうか。後で聞いてみようか。
「風紀委員って大変そう」
「部隊みてェなもんだ」
「それ学校組織じゃないよね」
あの松平先生が担当だ。よほど優れた軍隊なのだろう。間違った、学校組織だ。ただの委員会活動なのに事が大きすぎると思う。図書員会のゆるさと言ったら。
「土方くんの、役職は」
「…副委員長」
そう聞くと、ポツリと呟く。その呟きは少し小さかったが私はちゃんと拾うことが出来た。単語を認識すると嬉しくなった。
「副委員長!私もなんだよ、一緒だね」
「…委員長じゃねェのか」
「委員長は猿飛さんだよ」
「あァ、天パが顧問だしな」
土方くんも猿飛さんの熱愛っぷりには少し困っているようだ。授業を妨害されるとかなんとか言っている。そんなに酷いのか。
「――楽しそう、」
土方くんの話すZ組の話があまりにも非日常すぎて、憧れた。少し控えめに呟くと少し前を歩いていた土方くんには聞こえていたようで顔だけ振り向いた。
「俺は平穏に憧れちまう」
「絶対楽しくない、」
私の事を見て羨ましそうに言う土方くんに少し笑った。そんなに苦労しているのだろうか。
確かに話を聞いていると彼の立ち回りはツッコミのようで、あのクラスはつっこんでいたらキリがないので疲れそうだ。
「――そういや、」
「…何?」
思い出したように土方くんが振り向く。急に向くから少しびっくりしてしまった。
「この前、総悟と何話してたんだ」
総悟というのはあの栗色の髪の男子のことだろう。土方くんがあの場所でそう彼のことを呼んでた。
何を話していたかと聞かれてあの場所での会話を回想する。
『…お前ェはさ、』
『はい』
『土方さんのことを好いてんのかい』
『――は、』
なにやら思い出してはいけないものを思い出してしまったらしい。俯いてなにも言わない私を土方さんが覗き込む。顔を上げると、目が合った。
「――わ、」
瞬間、顔が火照るようなそんな感覚があった。これは完全に今顔が赤い。
「米内?」
「あっいや、特に、なんでもない」
暗くて土方くんには見えてないことが幸いだ。私がどもりながらそう言うと彼は少し不機嫌になったように感じた。
私も口を開こうにも開けず、先を歩く彼の後ろに黙って付いていく。その大きな背中を追いかける。
手を伸ばしたらギリギリ届きそうなその距離はどうにもいじらしかった。これもあの栗色の男子の所為だろうか。
広く大きな背中が視界の中心を奪っている。
先を歩く背中