中編寄せ集め

□性格が好き
1ページ/1ページ





テスト期間まで後一週間かそこらへんの時期。クーラーの効いた涼しい職員室に、担任の先生に校内放送で呼び出された。


夏休み前のこの時期に呼び出されるということは、大体内容は検討が付いた。



「進路用紙を白紙で出したのはクラスでお前だけだぞ」

「ですよねー、はは、」

「もっとちゃんと考えろよなぁ」



三年生の夏休み前にはかなりの人の進路は決定しているものだ。それに大学進学をする人はセンター試験に向けて既に受験勉強をしている。


「もっと将来のこと考えろ、再提出な」


白紙で出した進路用紙を返されてそのまま職員室を出る。


将来のことはまだよく分からない。特になりたいものや、やりたいこともない。かと言って適当に大学進学しても学費は馬鹿にならないし。



あまり人がいないであろう屋上に足は向かった。不良が屯しているかもしれないがそれはそれで帰ってくればいいだろう。



少し歪んだようなドアを開けると視界いっぱいの開放感。頭の上を飛行機が通り過ぎる。フェンスに手をつけば下で体育の授業をしている生徒の姿が見える。


呼び出されたのは昼休みの終わり頃で、結局授業には間に合わなかったようだ。このままサボってしまおう。



大きく息を吸い込んだ。すると少しばかりタバコの匂い。何処からだろうか。辺りを見回すと給水タンクの上から煙が見えた。


誰か居るのだろうか。寝転がっているのでここからは顔は確認できない。


そのまま煙を眺めているとその人は起き上がった。見覚えのある顔。彼は私に気づいたようであの目を見開いた。



「――米内?」

「土方くん、」


給水タンクのハシゴを登って驚いている彼の隣に座る。その手にはまだ煙を上げているタバコを器用に二本の指で挟んでいた。


「タバコ、吸うんだね」


そう言われて自分がタバコをまだ持っているということに気付いたらしく、慌てて携帯灰皿にタバコを仕舞おうとする。


「いいのに吸ってても」

「風紀委員がこんなん吸ってるたァ格好がつかないだろ」

「えー、そうかな」


火をもみ消してしまったのを見て少し勿体無く思う。タバコ吸ってるところカッコよかったんだけどな。タバコが似合う高校生というのも中々無いものだ。


「…米内もサボったりすんだな」

「意外かな」

「見た目からしてな」

「そっか、」


黒髪で大人しそうで、普通の静かな高校生のように見えるのだろうか。そうだったら嬉しい。真面目清楚を目指していたのだが見られてしまったらそこでおしまいだろう。


「…それじゃあこれも意外かな」


そう言って耳に開いたピアスを見せる。驚いている彼はそういえば風紀委員だったか。


「悪い奴」

「土方くんもね」


ダラダラと過ごしていた数年前に思いついて開けたものだ。当時私の周りでは普通だったし、髪も明るい色だった。学年が上がるにつれて真面目に地味に頑張っている。


空を見上げると青々と時たま白い雲が見える。飛行機雲はどこまでも続いていた。



「――土方くんは、将来の夢とかあるの?」


ポケットから少し顔を出していた進路用紙が、私たちを通り過ぎた風ではためいた。


「あァ」

「そっか」

「…米内は、」

「まだ、かな」


そう言って困ったように笑ってみると、土方くんは複雑そうな顔をした。


「俺は警察官になりてェ」

「警察官に俺はなる」

「オイコラ」

「ごめんなさい…でも、土方くんっぽいね」


なんでか分からないけど警察官というのは土方くんに似合っているように思えた。あの堅苦しい服を着ている土方くんを思い浮かべると、なんだが微笑ましい。


「…お前は、カウンターが似合ってんな」


さっき消したタバコとは別のタバコを取り出して火を付ける。流れるようなその動作は無意識のものだろうか。


隣に座っている私は、そのタバコを持っている綺麗な手から何か思うところがあるのであろう横顔に視線をやる。


「カウンター好きなんだ、分かる?」

「ずっとそこに居るからな」

「――土方くんは勉強が好きなの?」

「別に」

「それじゃあ、なんで図書室に来るの?」


テスト前になってここ最近彼は頻繁に図書室に顔を出すようになった。特に話をするわけでもないけど、こういう雰囲気はとても居心地がよかった。


私が聞くと、土方くんは少し意味深に眉をひそめた。何か変なことを聞いたのだろうか。


「なんでだろうな」

「えー、なにそれ…」


薄く笑って土方くんは立ち上がる。そのまま給水タンクを飛び降りた。


「えっわ、」


急に飛び降りるものだから私は驚いて、無事に着地してるか不安で身を乗り出した。


下では何事もなかったかのように出口へ向かう土方くんの姿があった。


(身軽…)



一瞬こっちを振り返って、口が動いた。風が吹いているので聞き逃さないように彼の声に耳を澄ます。


「――ー生図書館でカウンターに座ってんのも、案外いいのかもな」


思いもよらなかった言葉に少し顔がほころぶ。なるほど、その手もあったか。



携帯を開いてドアを閉めるその背中を見つめる。先ほどから密かに何度も鳴っていたというのに、土方くんはこっちを優先させてくれたのだ。


(普通に、嬉しい)


怖そうな外見とは違って優しく、少し不器用な彼。一人屋上に残った私は進路用紙を紙飛行機で飛ばした。





不器用な性格







[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ