中編寄せ集め

□あなたが好き
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昨日のことがあってから何かが可笑しかった。もちろん私のことだ。


動悸が凄いしなんだが胸が痛い、そして体が急に火照る。これはまさか、いやそんな。抱きしめられたことを思い出すとなんだか泣きたくなってくるのは何でだろうか。



「これは…なんていう病でしょうか…先生」




私は朝から保健室にいた。


変な様子を繰り返す、そんな私を見て此処まで連れてきてくれたのは紛れもなくこの坂田先生だった。保健室にお世話になるなんて久しぶりだ。体育祭で転んだとき以来か。


「知らねーよォ、青臭い話は他所でやれ」

「違うんですよこれはなんていうか…いやもうなんとでもなれっていうか…」

「話なら先生が聞いてやろーか」


ベッドの上でもがき苦しむ私を見て先生は近くの椅子に座った。なんでも今日は保健室の先生は出張らしい。


「…可笑しいんですよ」

「頭か」

「違いますよ、失礼ですね」


近くにあった枕を抱き寄せて顔の半分を埋める。小さく、独り言のように先生に話した。



「――最初は、手が好きだったんです」



図書室で目に入ったのはあの綺麗な手。他はどうでもよくてあの手が凄い好きだった。手に片思いって感じで、ずっとその筈だったしこれは変わらないと思っていた。


「次に声が好きだなって思って、初めて目が合ったときに瞳も好きだなって」

「…へぇ」

「夕日に照らされた横顔も背中も段々と好きになったんです」


何か意味深に相槌を打つ先生はなんだか話しやすかった。彼とは今まで話したことは無かったし最初は興味がなかったのだが、話したあの日から急速に他の箇所も目に付いた。


「私、今までピアスしてるのとか言ったことなかったんですよ」

「誰もお前が穴開けてるたァ思わねーよな」

「引かれるかなとか嫌われるかなって思ったんです、この学校意外とピアスいないじゃないですか」


時折目立つ髮型や服装の人は見かけるが、このように穴を開けている人はいなかった。だから隠した。


実際あの場で暴露してしまったときは、もう嫌われてしまったかなとも思った。だが彼は全く変わらなかった。逆にもっと親しくなれた。



「…先生的にはどう思いますかこれ、なんだか…全部好きなんですよ」

「そりゃァ、お前…っと、起きたみてーだな」



そう言って先生は私のベッドの横の閉められたカーテンの方に視線をやった。まさかこれをほかの人に聞かれていたのだろうか。恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになった。


開くカーテンをからは思いもよらなかった人物が顔を出した。あれ可笑しいな。先生どういうこと。


「――ひ、土方くん…」

「なんでも寝不足らしいぞ」

「うっせーよ…」


不機嫌そうに先生を睨む土方くんは本当に寝不足なようで目の下に隈が出来ていた。年頃の男子だし徹夜でゲームでもしたのだろうか。それともテスト勉強とか。


「んじゃ、先生行くわ」


ごゆっくりとかなんとか言って先生は立ち去ってしまった。あの銀髪、最初からこれを知って私を此処に連れてきたんだな。先生には全てお見通しなのだろう。


ドアから視線を土方くんのベッドに移した。ボーっとしているようだ。


「大丈夫…?」

「――米内、お前…」


そう言って身を乗り出した土方くんを咄嗟に支える。あまり効果はなくて土方くんが落ちそうになったがなんとか立て直した。


「あ、危ないよ」


支えた手を離すと、土方くんは逃がさまいとその手首を掴んだ。私は驚いて「わ、」と小さく声を出してしまった。


寝不足で疲れているように見えるが、真剣な瞳と目が合った。私が好きな瞳。



「さっきの、誰の話だよ」

「え、あっ…」


少し戸惑った。土方くんにあの話を聞かれてしまったらもう、なんだか凄い恥ずかしくなって私は俯いてしまう。少し掴む手に力が入った。


驚いて肩が跳ねた。同時に心臓も大きく鳴った。動悸は絶え間なく激しい。


「お前が好きなのは、手と声と瞳と横顔と背中だけか?」


全部聞いているじゃないか。これは完全に死亡フラグが立ってしまっている。


本当に私は土方くんのそれだけが好きなのだろうか、それを考えると他にも好きなところが沢山上がって私を悩ませた。


「…せ、性格と体温も好きです」

「他は」


私の大好きな手が頬に優しく触れた。包み込むように大きな手が撫でる。温かくて私の視界が少し揺れた。ドキドキと心臓がうるさく感じる。



(そうか、私は)



強い視線を感じて伏せていた目をゆっくりと上げると、あの鋭い瞳に捉えられた。もう逃げられない。


「土方くんが、好き」

「上出来」


瞬間腕を引かれて土方くんにしがみつく形になった。その上から土方くんは優しく抱きしめてくれた。心臓はどんどん速くなっていく。これはどちらの音だろうか。


「え、えっ?どういうこと」

「折角図書室に通ってんのに、お前手しか見てないたァどういうことだよ…」

「いやどういう…」

「会いに来てたんだよ」


イマイチ話が理解出来てない私に土方くんはため息を付いた。いやこっちのことも考えて欲しい。意味がわからないと言ったように視線を向けると土方くんはゆっくり口を開いた。


「前に聞いたろ、なんで図書室に来るのかって」

「あー…」


(そういえば、)


彼はあの時流して私の問いにはちゃんと答えてくれなかった。その答えだというのか。


「お前に、会うために通ってた」

「――マジですか」

「…大マジ」


意外な答えに顔を上げると少し赤くなった土方くんの顔があった。あれ、可愛い。


土方くんに「可愛い」と一言言うと「お前の方がな」とあっさり返された。この人にはどうも敵わないようだ。


頬に触れると愛おしくなった。体温が子供みたいに高くて温かい。私が心地よさに目を細めると、土方くんの顔が少し上から降ってきた。






愛しいあなたが好き




(やっとくっついたか)
(うるせーよ、)
(結婚式には呼べよな)
(先生私をハメましたね)
(許せ)








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