こんな真夏の暑い日に学校で勉強させるのは頭が可笑しいのではないかと思う。確かに赤点を取ったのは私だが、この仕打ちはあまりにも酷いと思う。
先生は皆クーラーの効いた職員室に逃げてしまった。適当にプリントを配って先生が去ったこの教室はもうやりたい放題だ。
どうせ進まないし今日はもう帰ってしまおうか。荷物をまとめて賑やかな教室を出る。
私は比較的地味なグループの方なので今帰ったことは誰にも知られていないことだろうし先生もきっと気付かない。あまり目立つ方ではないから印象も薄いことだろう。
(苺牛乳買おうかな)
このクソ暑い日にこんな甘ったるいものを飲むのは可笑しいと、この前友達に言われたばかりだ。それでも好きなものはしょうがないと思う。
購買の自販機に向かうとジュースを買っている人が既にいた。先生だろうその後ろで順番を待つ。
千円札を入れてボタンを連打する。全部私の目当ての苺牛乳のボタンで私はそわそわしてしまう。こんなに買って私の分は残るだろうか。最低でも2つは飲みたい。
どんどんと品薄になっていく苺牛乳を眺めていると最後の1つが落ちた。売り切れの赤のボタンが点滅した。
「あ、」
つい声に出てしまった。その声が聞こえたようで先生が手にいっぱい苺牛乳を抱えて振り向いた。
「あれ、もしかしてこれ買うつもりだった?」
「あっいや、大丈夫です…」
仕方が無いから他のものを適当に買おうと思って財布を取り出す。すると先生が苺牛乳を1つ私に差し出した。
「やるよ」
「え…いいんですか」
正直なところ苺牛乳以外飲む気にはなれなかったのでありがたかった。でも先生のお金だし悪いのではないだろうか。
「俺ァただストック買いに来ただけだしな」
「で、でも…」
「いいって」
ほれ、と差し出された苺牛乳を大人しく受け取ると先生は少し笑った。見たことのない先生だったので、多分他のクラスの先生なのだろう。いい人だ。
「…あの、お金…」
出していた財布から100円玉を探していると先生に止められた。イマイチ納得がいかない私は少し難しい顔をしてしまう。
「んなクソ暑い中、勉強頑張ってる生徒に先生からのご褒美です」
そう言って先生は苺牛乳を1つ開けた。私もつられて買ったばかりの冷たい苺牛乳にストローを差す。
「ありがとうございます…」
苺牛乳についつい顔がほころぶ。その様子を見て先生は私の頭に手を置いた。
私と同じように男の人では珍しい少し甘い匂いがした。男の人が苦手なハズなのにその香りのせいだろうか、先生の手は振り払うことが出来なかった。
見上げた私と目が合うと、先生は私の髪をぐしゃぐしゃにした。暑いのに伸ばしている髪が顔に掛かって視界が不自由だ。自分が使っているシャンプーの匂いが少し髪から香る。
「な、なにするんですか…!」
「ヒデー髪」
「先生がやったんですよ!数秒前に巻戻してくださいよ!」
先生は浅く笑いながら去っていった。その後ろ姿を睨むように見つめる。少し、私の顔が赤いのは夏だからだろうか。
先生にドキドキした。
少し、動揺した
(あれ、いつもより本数少ないネ)
(とある少女にあげた、つかなんでいつのも本数知ってんだ)
(姉御と何本買ってくるか賭けてたアル)
(ふーん…)