雪月のバーバチカ

□曇り空と夕焼け
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屯所を後にすると、空は少し曇っていた。冬独特の肌寒さが身を震わせる。


かぶき町にも大分慣れたと思う。まぁ、時代背景にはまだついていけていないが。なんだがこの世界は中途半端に現代的で、時代的。その矛盾点に突っ込んだら負けだと思うようになってきた。



お妙ちゃんが待っているであろう、夕飯の食材を買って早く帰らなければと思って、足を早める。すると、目の前には見覚えのある銀髪。


私は声をかけようとして、少し駆け出す、すると、頭の中を何かが通り抜ける感覚。

「…っ…、…」


普段より鋭い痛みに眉間には深くしわが寄る。ガンガンとする痛みに格闘する己の額に手をやって目を閉じる。



「…椿?どうした!」

「…ぎ、…」

目を開くと、目の前には銀髪。倒れそうになっていたのを支えてくれたらしい。私は安心させるように少し笑う。頭痛(これ)は、いつものことだ。



「…大丈夫、ですよ。ちょっと目眩がしただけで」

「顔、青いじゃねェか…こっからだと万事屋が近ェな、いくぞ」


肩を貸してくれるその人の横顔を目を薄めて見る。「ごめんなさい」とだけ小さく言って、肩を借りた。










夕焼けの空、赤く小さな村を照らす。

『――置いてくぞ』

『待ってよー!』

その中に小さな男の子と女の子が2人。歳は、10歳を超えているかそれくらいで。小さな少女の手には抱えきれないほどの花が。

『半分持ってやるから急ぐぞ、日が暮れる』

『うん!ありがとう!――…』

そう言って2人で狭い道を歩いていく。男の子は多少ぶっきらぼうだが、女の子の笑顔につられて、口元が緩んでいる。

男の子の髪は、夕焼けで心なしか銀色に光っていた。







――よほど頭が痛いのだろう、万事屋に着いた頃には椿はもう眠っていた。銀時が椿を抱えて帰ると、神楽や新八が飛びついてきた。彼女を心配しているのだろう。あまりの取り乱し具合に銀時も苦笑いだった。


布団を敷いて、今は居間で静かに寝ている。先程までは苦しそうにしていたのだが、濡れたタオルを取り替えているうちに、いつの間にかその表情はゆるやかなものになっていた。


(そういや、新八に今日椿を泊めるって伝言頼まねェとな。)

銀時が立ち上がってその場を離れようとしたとき、椿が呟いた。




「――…銀、ちゃん…」


「!?」


自分の名前を読んだのは紛れもなく椿で、でもその呼ぶ声や呼び方がなんとなく”誰か”にとても似ていた。

彼女に感じる違和感。


一度も自分のことを「銀ちゃん」だなんて呼んだことのない彼女がどうしていきなり呼んだのか。そしてそれに過剰に反応する自分はなんなのか。



(――懐かしい?)


そんな、まさか。

彼女とは何週間か前に初めて会ったばかりだ。しかも違う世界の住人だとか言っていたし、自分にはなにも接点はないはずだ。


なのに――…




「銀ちゃん、椿大丈夫アルかー!」


神楽の声でハッと目を覚ます。




自分の思い込みだろうか。ただの寝言なのにそんなに考え込むことはないだろう。ましてや、勘違いだったら恥ずかしいし、もしそれが本当でも記憶にまったくない。自分は、とんだ妄想野郎だ。





「はいはい、起こしちゃうから銀さんと向こうに行きましょうねー」

「銀ちゃんのケチー」

彼女を横目でチラリと見て、部屋を後にした。






動き出した世界と私と。



(そして貴方も)




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