雪月のバーバチカ
□丼物とUNO
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仕方なく、食堂の椅子をひとつ引いて、腰を下ろす。沖田さんの目の前には土方さんが座り、その横に席をひとつ開けて私が座る。
土方さんは朝にもう既にご飯は食べた筈なのに、なにやら白米だけを乗せた丼を持っていた。
そこに取り出したのは業務用マヨネーズ。
白米の上にこれでもかと言う程マヨネーズをかけまくる。そう、マヨネーズを丼の上に山のように…マヨネーズ……ん?
「えぇええ!!!」
「なんだ、うるせェな」
「あっいや、すみません…えっでもマヨネーズ…あれ?」
そのマヨネーズ丼をごく普通に食べる土方さん。そう、まるでこの食べ物が地球上に存在するかのように。普通に。
私が開いた口が塞がらないといったように、そのマヨネーズ丼を見ていると、沖田さんが口を開いた。
「うわー不味そうでさァ」
「お前は味覚がお子様だからな、そのうち分かる」
「一生分かりたくないですぜィ」
見てると胃もたれしそうな程のマヨネーズの量。私のご飯を食べるスピードも落ちていくのは仕方ない事だろう。沖田さんなんてもうご飯を食べてない。
しばらく雑談しながら土方さんのご飯が減るのを待った。
「そういや、椿はいくつなんですかィ」
「女性に失礼ですよ。なんて、20代半ばです」
クスクスと笑いながら言うと、沖田さんはふむ、と何か考えている。
「それじゃあ土方コノヤローと同じくらいでさァ」
「あら、そうなんですね。なんとなく嬉しいです」
土方さんは落ち着いているから少し上かと思っていたけれど、案外そうでもないんだな。ちょっと意外。
「んじゃあ、俺はいくつに見えますかィ」
沖田さんが自分に指を指してそう言う。沖田さんはなんとなく、まだまだあどけなさが残る、青年に見える。
「20歳にはまだなってない、ですよね…?」
「そんなに幼く見えますかィ」
これが外れたら失礼にも程がある。可愛い感じの顔をしているので、てっきり若いもんだと思っていたが。
「え、ち、違いましたか…」
「いや、合ってますぜィ」
(あってるんかい!)
無駄に緊張してしまった。
しかし、この若さで地位に就くというのは、彼がどれほどの実力者なのか、それを思い知らされる。
近藤さんも、まだまだ30代には行っていないようだし(自称)、此処は若い人が力を付けているのだろうか。と、いうか、若い人しか屯所内にいないのではないか。
そんなことを私が考えてるうちに、土方さんが食べ終わったようだ。
私と沖田さんはまた食べるのを再開した。土方さんはマヨネーズ丼を食べれて満足したうようで、椅子からに立ち上がる。
「ご出勤ですか」
「まぁな、総悟も早く食え」
「誰のせいで食べれなかったと思ってるんですかィ?」
「なんの話だか」
言い合いを始める二人の腰には刀がぶら下がっている。
世の中物騒になったものだ。もしかして、警察が拳銃を持っているような感じのものなのか。
ガチャガチャと音を立てる刃物は、とても恐ろしく思える。よくそんなものを腰に差しておけるな、と少し思った。
「沖田隊長ー!見回り行きますよー!」
隊服を着た男の人が沖田さんを呼びに来る。
(隊長?)
「あの、沖田さんって…」
「あァ、アイツはあんなんでも一番隊の隊長だ」
「一番隊…?」
よくわからないが、とにかく凄いらしい。部下まで居るのだ。私だって部下はいたがそんな地位には就けなかった。なんか悔しい。
「…それじゃあ、片しておきますね。お二人方いってらっしゃいませ」
慌ただしく出て行った沖田さんと土方さんに頭を下げて、食器を片付け始める。なんだがとても忙しそうだ。毎日あんな感じなのだろうか。
――それに比べて、近藤さんは暇そうだった。
私が洗濯をしているとひょっこりと顔を出してUNOに誘ってくる。
真選組ではUNOが流行っているのだろうか?二人でUNOをやっても面白くないと思うのだが。
「お仕事はどうなされたんですか?」
「書類に判子付くだけだから、すぐ終わったんだよ!」
「お疲れ様です、お茶でも淹れますか?」
「あっ、お願いします」
そう言って手にUNOを持ったまま自室にトボトボ戻っていく近藤さんを見て、ため息が出た。
近藤さんはつくづく損をしていると思う。色々目を瞑れば、近藤さんはお得物件。飛びつかない女はいないだろう。真選組局長で、人望も厚いし、なにより強く男らしい。
――ただ、それを足してもお妙ちゃんは近藤さんには飛びつかないだろう。なによりゴリラだ。
(いい人だとは思うんだけどな)
このまま、平和に過ごしたい。
(結局近藤さんに負けて、UNOをして一日を過ごしてしまった)