雪月のバーバチカ

□きゅうりと赤
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肌寒い今日。寒から、と赤いマフラーを出かけるときに貰った。こんなに綺麗な色は私にはあまり似合ってはいないかもしれないが、ありがたくいただいた。



スーパーの袋をガサガサと音を立てながら両手に持って歩く。隣を見ると、割と印象が地味めの隊士の人。


「いやー女中も大変ですねー、こんなにたくさんの荷物」

「そうですね、少し」


無言で歩いていた場の空気を和ませようかと思ったのか、話しかけてきた。この人地味な人は山崎さんと言うようだ。少し他愛もない話をしていた時、ふと買い忘れを思い出した。



「あ、」

「どうかしました?」

「きゅうり、買い忘れました」



あちゃーと少し2人で笑って、私は近くのベンチに持っていたビニール袋を置いた。



「それじゃあ私、少し買い足してきますね」

「えっ!1人じゃあ危ないですよ!」


きょとんとして見ていた山崎さんだったが、私の一言で目が覚めたように慌てる。そういえば、山崎さんが一緒に来てくれたのは護衛のためだったな、と思い出す。


「ここからすぐ近くですし、大丈夫ですよ」

「いやでも…」

「それに、こんな荷物持ち歩くの大変ですし、少し休憩なさってください」


2人でこの荷物を持ってまたスーパーに行くのはあまりにも効率が悪い。山崎さんもそれはわかってるようで。



「そ、それじゃあ俺が行き…あっそれは同じことか…」



山崎さんはあくまで護衛で、私と別行動を取ることになる結果は変えられず、少し唸るように考えている。間が空いた後、山崎さんは渋々と言ったように口を開いた。


「…早く、戻ってきてくださいよ?」


1人でここで荷物番をさせることより、買い出しに行かせたほうが安全だと思ったのだろう、私は「はい」と短く返事をして来た方向を戻っていった。




「…はぁ…副長にバレたら怒られるんだろうなァ…」



そう言って、山崎さんが大きくため息をついていたことは私は知らない。







街に降りるのは久方振りだろうか。



この前の海上線でラストの着物を汚してしまったようで、己のタンスの中はさっぱりとしてた。着物にはこだわっていて、普通なら部下にでも行かせればいいところをわざわざ自ら出向くと言うのがまたそれを思わせる。


タイミングがタイミングで、丁度年末で人通りが多い時に当たってしまったが、まぁそれは自分が人ごみに隠れるのでいいとしよう。



笠を深く被って人々をするりと通り抜けるようにして歩いていく。あまり人が多いのは好きではないので、早く戻りたいと少し思っていた。




「――チッ、真選組か」



通りの端にあるベンチに真選組の隊服を来た隊士が座っているのが視界に入る。足を早め、気配を消してその場を通り過ぎる。


隊士は何か思うことがあるのだろうか、全くこっちを見ていなかった。きっと気づかれてはいないだろう。


堂々と通りを歩くことが出来ないのは面倒だと思う。だが、それは自分が今までにやってきたことを考えると、仕方の無いことだ。今更堂々と歩きたいなどとは思わない。



空を見上げると、宇宙船が見えた。俺があの時にアイツ等と見上げた青空はどこへ行ってしまったのだろうか。過去に戻りたいなんて甘いことは言うつもりはない。ただ、この世界が憎い。



「…ぶっ壊してェ…」



暗い空は好きじゃない、この季節も。理由はよくわからないが、自分らしくないような気持ちになる。


(――苦しい)



そんな自分をふっと笑って裏地に入ろうとする。


人々とすれ違いながら歩いていると、大きく心臓が一回打った。



――ドクンッ



ざわざわと頭の中が掻き回される。最近は少なくなっていた、あの頭痛だ。だが、いつもと様子が違った。


目に映る街の人々の動きがゆっくりになる。時が止まったように、段々と色を失っていく世界。


一度目を大きく開き、瞑る。疲れているのだろうか。



辺りを見回すようにすると、すれ違った人々の中に色が。




(―――赤、)




それを視界の隅に捉えると、急に頭の中が空になり、そして、尽きることを知らないように、増幅した。







増幅する自分の世界は、


(誰にも止められない)






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