君の手を引いて走れ!

□サッカー編
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助っ人でサッカー部に入るときに私が円堂くんと約束したのは部員が11人集まったら辞めるということだった。小さい頃から少しだけサッカーをかじっていた私は風丸くんと共に円堂くんに誘われたときは力になれるのならと引き受けた。


約束は2年生に上がった春の終わり頃に終わりになった。サッカー部の部員が男子11人になったのだ。これから大きな練習試合に望むところだったのだが、私は約束通りサッカー部を辞めた。


約束に悔いはないし、実際女子がサッカー部に入ったところで試合に出れるわけではなかったので妥当だと思った。


それに、女子がサッカーをしても意味のないことだと、そう思っていたから。



12

試合は雷門が勝利した。会場の余韻に浸りながら私は少し早めにスタジアムを出る。本当は顔を出したほうがいいのだろうが一応内緒で来たのでそれはしないでおこう。


喉が少し乾いたなと思って自販機の前に立つ。数台ある自販機の内どれを選ぼうか。ウロウロと考えてボタンを押す。


「あ、」


ガコンと音がして出てきたのは水。まさかの水。私はその天然水の横にあった炭酸のボタンを押したつもりだったのだ。いや今絶対炭酸のボタンを押した筈だと思って悔いるようにして自販機を見つめる。


「私の炭酸…」


すると後ろから人が来てさっき私が選んだ炭酸のボタンを押す。屈んで欲しかった炭酸を私の前に差し出した。


「ほら、これだろ」


イケメン逮捕。このまるでチューリップのような逆毛には見覚えがあった。帝国戦の後にサッカー部に入部した豪炎寺くんではないだろうか。


「えっいいんですか」

「水とチェンジな」


水を差し出すと満足したように私の手に炭酸を置いた。冷えている容器が手のひらに当たって冷たかった。実は彼と話すのは初めてのことだった。


「観に来てたんだな」


先程、試合の前にドレッドの彼に聞かれたようなことを再び問われた。ミネラルウォーターが似合う中学生なんか聞いたことがないが、豪炎寺くんには様になっていた。


「キャプテンからご招待を受けたので」

「円堂から話は聞いていた、それでお前は来ないかと思っていた」

「そのつもりだったんだけどね」


ヘラヘラと笑う私と困ったように眉を寄せた豪炎寺くんとは温度差があるように感じた。「来ないつもりだったけど、」そう言って言葉を繋げると彼はゴーグルマントくんみたいに口だけで笑った。これは流行りだろうか。


「――サッカー、好きだからさ」


豪炎寺くんに会ったのは偶然だったのだろうか、計算されたようにその場に居た豪炎寺くんには何故か脱帽したい気分だった。私が来ていたのを知らないとなるとゴーグルマントくんは私と会ったことを喋っていなかったらしい。


私は手を上げてちょっと格好良くその場を後にしたが、その後にバスを乗り間違って3時前にはスタジアムを出たはずが家に着いたのが夕方になってしまったのはもう台本通りだ。



















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