良く晴れた朝だった。選手は色々な思いを抱えながら今日の日を迎えるのだろう。私は目覚ましが鳴る前に起きてカーテンを思いっきり開けた。
今日を夢見て頑張った泥んこ塗れの日々を思い出して少し苦笑いしながら身支度をした。鏡に映るのは自分とその後ろに飾ってあるフットボールフロンティアのポスターだった。
久しぶりに目に入ったポスターに触れて私は大きく息を吸う。――今日は、雷門が日本一になる日だ。
16
何故か空に浮いているスタジアムにあんぐりと口を開けたまま目をやる。会場は間違ってないはずなのだがこれは明らかに不思議でならない。まぁサッカーで必殺技を使ってる時点でもう次元が違うので仕方のないことなのだろうけど。
まるで天界のようだ。ずり落ちそうになったメガネを上げると私はスタジアムへ足を踏み入れた。
余談ながら試合はもう始まっている。実はまたバスを乗り違えて逆方向に行ってしまった。よくある話だ。歓声も特にないスタジアムでは一体どこがスタンドへの入口かわからなかった。(また迷子)
小さな足音がパタパタと聞こえる。疑問に思って来た道を振り返るとそこにはサッカー部のマネージャーである3人の女の子が。
「秋ちゃ…」
近くに駆け寄ると3人とも2人の大人の人に追われていた。警備員さんなのは分かっているがそれにしてはこんな女の子達を追いかけるなんてタチが悪いのではないだろうか。
小脇に抱えてた新品のサッカーボール(日本一になったときに円堂くんたちにサインを貰おうと思ってた)を宙に放り投げて警備員に目掛けて必殺技を繰り出す。大きく風を巻き込んだそれは警備員にヒットして2人とも倒れてしまった。
「なまえちゃん!」
「秋ちゃんたち大丈夫?ってか警備員さんにぶつけちゃって良かった?」
逃げていた秋ちゃんが私のもとに走ってくる。そんな秋ちゃんに心配になりながらそう聞くと笑って「ありがとう」と言ってくれた。一緒に逃げていた雷門さんと音無さんはとてもびっくりしていたようだったけど。
「皆頑張ってる?」
「うん!早くなまえちゃんも応援してあげて!」
ボールは奥の方に行ってしまったので残念ながら拾うことは難しいだろう。折角寄せ書きして貰おうと思ったのに。秋ちゃん達はフィールドの方を目指して(多分)駆け出す。そういえばと思って彼女を呼び止める。
「秋ちゃん!」
「?どうしたの?」
「じ、実は観客席の行き方が…」
もごもごとそう言うと音無さんが吹き出した。ちょっと恥ずかしい思いになりながら秋ちゃんから行き方を教えて貰って皆とは別方向のスタンドへ向かった。
もう後半戦に突入してしまっただろうか。自分の馬鹿っぷりに情けなくなりながら私は長い階段を上がる。間違って階段で来てしまったのが悪かったと思う。こんなことになるなら意地張らないでエレベーターを使えばよかった。