記念撮影が終わって帰り支度をした後、廊下で新品のサッカーボールを拾った。見覚えのあるマークの描かれたそれを持っていると後ろから春奈に声を掛けられた。
「お兄ちゃん行かないの?」
「ああ、今行く」
ボールを抱えていたのに少し疑問が生まれたであろう春奈の目線がサッカーボールに行く。するとその隣を歩いていた木野が声を上げた。
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「それ、なまえちゃんのじゃないかしら!」
「あ!もしかしてあの時に蹴ったボールですかね!」
あの時というワードにそういえばみょうじに助けられたと話していたなと思い出して納得する。それに彼女ならこのマークを描いているのもうなずけた。
「みょうじは?」
「うーん…なまえちゃんのことだから、きっともう帰っちゃったわね」
残念そうに眉を下げる木野に「そうか」とだけ返してボールを抱え直した。後で返してやるとしよう。春奈がニヤニヤとしながらこちらを向いていきた。
「…なんだ」
「なまえさんにボール返さなくていいのー?」
「後で返す」
「後で、ねぇ…今呼んでみたら?」
呼び出すにも手段がない俺は春奈に首を傾げた。「まさか連絡先知らないの!?」そう言われて頷くと何故か木野にまで驚かれてしまった。ついでに前を歩いていた風丸まで巻き込んで結局風丸の携帯で電話を掛けることになった。
どうしてこんなことに。頭を抱えているとみょうじの電話番号をダイヤルした風丸が「ほら」と携帯を渡してきた。どういうことだ。
眉間にシワを寄せていたが、電話口から「もしもし?」とみょうじが聞こえるので仕方がなく携帯を耳に向けて口を開いた。
『もしもーし!風丸くん切っちゃうよー!』
「俺だ」
『風丸くん声変わりしたの?ってか聞いてよ間違ってバス乗っちゃってさー!また世宇子中のスタジアムに戻っちゃったよ!』
「そのまま待っていろ、忘れ物だ」
『あ、あれ…その声はまさか…』
「じゃあな」
ヘラヘラと笑っていた電話口のみょうじが急に真剣になったところで電話を切ってやる。多分コイツのことだろうから携帯片手にスタジアムで唖然としていることだろう。
大分笑っている風丸に携帯を返し、稲妻のマークが描かれたサッカーボールを抱えて出口へ向かうと、雷門サッカー部の人だかりが出来ていた。その真ん中で青い顔をしているだろう彼女を想像して自然と口が釣り上がった。