お昼過ぎ、ケーキを2人で囲って誕生日を祝う。やはり今年も海外で仕事をしている両親は帰ってこれなかったようだ。少し歪な形のケーキに苦笑いをすると弟は美味しそうに食べてくれた。
やはりプレゼントには箱に入ったサッカーボールを渡した。またサッカーボールかみたいな顔で見られると思っていたが、かなり嬉しそうだったのでほっとした。…そして何故か弟も同じような箱を取り出して私の前に置いた。
「何故」
「はやくあけて」
催促されながら「はいはい」と言って開けると、そこには新品のサッカーボールが入っていた。しかも何故か真っ黒のボールに白という、本来のサッカーボールとは逆のカラーリングだった。
「なんだこれ!」
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珍しいなと思ってくるくると回して見ていると、弟は嬉しそうにしていた。一旦テーブルの上にボールを置いて、コイツいつの間にこんなものを買ったんだとじっと見つめると、「お母さんがくれた」と封筒を出した。きっと弟が相談してお母さんがお金を送ってくれたんだなと思った。
「でもどうしていきなり…」
「姉ちゃん、これでサッカーやって」
年相応に無邪気に笑って、さっき私がテーブルの上に置いたプレゼントのサッカーボールを差し出した。
「でも、私は…」
「円堂さんたちとまたサッカーやってよ!」
この子は私が迷ってたのをわかってたんだなと思って、少し頼りになる弟に驚いた。そして、今度はちゃんとボールを受け取って笑ってやった。
「ありがと、」
数時間後、私は荷造りをして家を出た。青と黄色のカラーリングのジャージはもう着ないと思っていたけど、手元にあるそれに袖を通す。両親に電話したときは酷く驚いていたが、「皆とサッカーしてくる」と言うと「無理はしないで」と返ってきた。2人とも今日の内に帰ってくるらしくそれまで弟はお留守番だ。
「優一も京介も、弟をよろしく」
「任せてください」
剣城家の玄関で8歳の最年長の優一が弟の手を引いて言うと、隣に立っている京介もうんうんと頷いた。小さくて可愛いこの子達をまとめて抱きしめて、私は雷門へ足を向けた。