君の手を引いて走れ!

□始動編
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まだ?皆まだ来ないの?遠出するって聞いていたので持ってきたお菓子の箱を、1人で開ける。皆で食べようと思ってたんだけどな。


隣の座席にサッカーボールを置く。中々来ない皆に嫌がらせをしてやろうと思って、お菓子の香りでバスの車内を甘ったるくする作戦に出た。


虚しくチョコレートではあまり効果はなかった。12個あったチョコが半分ほど無くなった頃、暗かったバスの中が急に明るくなった。



26

「やばい!」


呑気にお菓子食べてるなんて知られたら、と考えるとこの状況でまずすることは片付けだと思って、屈んで足元に置いたお菓子を入れてきた袋に詰め直す。


バスの中からでも皆の声が聞こえるのでどんどん近くなってくるその声に冷や汗が出た。お菓子を開けたことを後悔しながら黙々と片付けていると、バスのドアが開いた。


外からは中は見えていない。なんだか私が隠れたみたいになってしまったが、私は一応瞳子監督に「キャラバンに乗って待ってて」と言われたのだからこんなにビクビクしなくてもいいはずだが。


お菓子を片付け終わり、荷物を引っ掛けるところに袋を掛けた。多分これで私がお菓子を食べ散らかしていたことはバレないだろう。丁度良く荷物を抱えたサッカー部が入ってきたところだった。


最初に入ってきた円堂くんが私を捉えると、彼はドサッとその場に荷物を落とした。後ろから「詰まってるぞ」と言う声が聞こえてきたが多分円堂くんには聞こえていないだろう。私が苦笑いをすると円堂くんはパァっと表情が明るくなった。


「なまえ!?」


円堂くんが大きな声で言うと後ろに居た他のメンバーも次々と声を上げた。と言うか、屈んでいた体制から座席に座ったので外からも私のことが確認出来ると思う。


「お前、なんで此処に…!」


円堂くんの後ろにいた風丸くんもかなり驚いている。すると、バスに乗り込もうとしている部員の後ろにいた瞳子監督が簡単に補足をしてくれた。


「言い忘れていたけど、強力な助っ人を用意しました」


言うの遅くないかと思ったけど、そこは監督だからあえて言わないことにしよう。そうなんです、私は今回だけの助っ人なんです。円堂くんは監督の言った言葉を聞いて私の肩を掴んで大きく揺らした。


「またなまえとサッカー出来るんだな?もっと早く言ってくれれば良かったのにな!びっくりしたぞ!」

「うわああ!ちょ、円堂くん、…うぇ、気持ち悪い…」


めっちゃ喜んでいるんだろうけど流石にこれは頭がぐるんぐるんしてくる。皆が荷物を置きだしたのにまだ揺すられているこの状況は何故誰も止めてくれないのだろう。そう思っていたら、ゴーグルとマントとドレッドの救世主が現れた。


「その辺にしてやれ、円堂。バスが出発する前から弱らせてどうする」

「う…おぇ…ご、ごー…鬼道くん…」

「悪い!なまえ生き返ってくれー!」


とりあえず円堂くんから脱出して前の座席にもたれ掛かる。皆もう席に着いたみたいで、よく分からない所から地上に出たキャラバンは元気に出発した。それにしても気持ち悪い。



















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