君の手を引いて走れ!

□突撃編
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両親は、私の幼い頃からずっと仕事が忙しい。その時は隣の剣城家にお邪魔することが多かったが、弟が生まれる前は、私は1人で家の中で留守番をする日もあった。


小さい私が1人で座る2人掛けのソファーは大きくて、両親と3人で座って丁度良いくらいだった。1人で留守番をしていた私は無意識に隣に手を伸ばし、ただの空気を掴んだ。


幼いながら両親が忙しいのは仕方の無い事だと分かっていた。分かっていて自分は1人でも大丈夫だと思っていたのだけれど、宙を浮いただけの自分の右手を見て急に酷く悲しくなった。――何が1人でも大丈夫だ。



27

「…おぇ…、」


出発してから10分も経っていないだろうが私は座席で完全に酔っていた。さっき大きく揺すられすぎたからなのは充分分かっている。円堂くん呪う。


皆とは少し離れた前の方の席で、窓側に座ってもたれ掛かるようにしていると隣に誰かの気配を感じた。誰だろうと思って顔だけ右を向くとそこにはゴーグ…鬼道くんが座っていた。


「鬼道、くん」

「大丈夫か?酔い止めを貰ってきた」


水と一緒に差し出された錠剤を見てゆっくりと頷くと、酔い止めの錠剤を2つ手に取った間に鬼道くんはペットボトルのキャップを開けてくれた。紳士か。


「あ、ごめ…、」

「飲め」

「…あい」


強制か。急いで水を受け取って、それをちょっと苦味を感じながら水で流し込むと、それを見届けてくれた鬼道くんは席を立ち上がろうとした。


行っちゃう、そう思って私は何を思ったのか手を伸ばそうとしてしまった。「あ、」と気付いてすぐに引っ込めるが、多分鬼道くんには見られてしまっただろう。


「どうした?」


少し心配そうに立ち上がって席に戻ろうとしている鬼道くんに少しだけ笑って「大丈夫」と言うと鬼道くんは後ろの席に戻っていった。


私は何をしているんだと思って落ち着かせるように目を閉じると、そのまま眠くなった。少しだけなら大丈夫だろうと思って、皆に気付かれないように静かに眠りに落ちていった。


















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