君の手を引いて走れ!

□特訓編
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吹雪士郎くんが1人で上がっていく。その後ろ姿を少し戸惑いながら追いかけた。彼は1人でサッカーをやるつもりなのだろうか。


染岡くんの「何勝手なことやってんだ!」という声が聞こえたがそれは彼の耳には届かなかった。



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ボールはジェミニストームの必殺技によって奪われてしまった。これ以上の失点は許されない場面、私は風を切ってボールに正面から向かっていく。


そのジェミニストームの選手を追っていた鬼道くんが「みょうじ!」と叫んだ。その瞬間選手とすれ違うようにしてジェミニストームのゴールまで上がっていく。一瞬のことで判断が遅れ、私がボールを奪ったことに周りも気付かなかったようだ。


見回すと前線には吹雪士郎くんしかいない。染岡くんを抜かしてしまったようで少し後悔をした。「シュートを打たせろ!」と言ってきた吹雪士郎くんに戸惑いもあったがボールを渡して、シュートは新しい雷門のエースストライカーに任せた。


そのまま同点ゴールが決まって初めての得点に唖然とする。FWに専念する吹雪士郎くんは恐ろしいくらい攻撃的で、でもそんな彼が私達が求めた「点を取れるストライカー」だった。今の雷門にはこれくらいの勢いが無いと駄目なのかもしれない。個人的にはDFの吹雪士郎くんの方が穏やかで好きなんだけどな。


ニヤリと笑う吹雪士郎くんは別人の様だったけれど、必ず点を決めてくれるストライカーの吹雪士郎くんは頼りにしてもいいようだ。振り出しに戻っただけだ、そう思ってまた気を引き締めた。このままジェミニストームが追加点を入れさせてくれるとは思わない。


試合はロスタイムに入った。さっきまでとレーゼの気迫は違った。スピードが上がっていてそのまま1人でゴール前まで突っ切って行った。だがゴールを守る円堂くんもまた違っていた。彼はディフェンス技を破って向かってくるボールに集中する。


「円堂くん…!」


祈るように彼の名前を呼びながらゴール前に走っていく。彼ならきっとこのシュートを止めてくれると信じた。鬼道くんや風丸くんも同じように上がる準備をしていた。


「マジン・ザ・ハンド!!」

「なにっ!?」


円堂くんの手にはレーゼが打ったボールが収まっていた。皆口元を緩ませて一気に駆け上がる。


「なまえ!」


そのままボールを円堂くんから受け取って前線に上がっていく。いつもより風を感じて走ると羽が生えたように体が軽かった。


レーゼの「止めろ!シュートを打たせるな!!」という声で我に返ったようにDFがボールを奪いに来た。私はスライディングを軽く流して鬼道くんにパスを出した。彼はニヤリと笑ってシュートを打つ気満々のエースストライカーにボールを渡す。


「吹き荒れろ…エターナルブリザード!」


きっと彼なら決めてくれるだろう、そう思って私と鬼道くんは顔を見合わせて少しだけ笑う。そして、試合終了のホイッスルが白恋中のグランドで大きく鳴ったのだ。











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