Get your life!(ダイゴ長編夢)

□第一話 逃亡、そして旅立ち
1ページ/2ページ



真夜中のシンオウの海を一隻の船が走る。イッシュ地方からファイトエリアを経由し、キッサキシティに向かう貨物船は、操舵室以外に明かりは点いていない。ほぼ全ての乗組員と、ポケモンたちは長旅の疲れで眠りについている。船が進むたびに氷を砕く音が響く。いつも通りだった。ただ一つ、倉庫の中で一人の若い女性が肩を抱いて座り込んでいた事以外は。

「…寒い」

心許ない手は胸に下げた銀色のロケットを握った。カチャリ、という音とともにひんやりとした感覚が伝わる。ロケットには持ち主の「セイラ」という名前が刻まれていた。セイラは立ち上がると、忍び込んだ貨物船から外の景色を見つめた。黒い夜の荒海とそこに浮かぶ流氷以外は何も見えない。

(…まだ気づかれていないみたい)

セイラはほっと息をついた。逃げてきたあの屋敷からは、追っ手がここまで来ている気配は無い。

(でもあの女はきっと私を追ってくる)

捕まったらもう、私は終わりかもしれない。私を守ってくれる人はもういないのだから。
とにかく徹底的に足取りを消さなくては。あの三つのエリアに私がいないと分かったら、この船に乗ったということがバレるのも時間の問題だ。まずはキッサキに着いたらどうすべきか考えよう。あそこは雪の町だ。だから外にはいられないし、人口が少ない分見つかるリスクも高い。だったらすぐにでも出るべきだろうか。それとも、どこかでやり過ごした方がいいのだろうか。

ふとした瞬間、寒さと疲れで目眩の様な眠気がセイラを襲った。日没と共に人目を避けてリゾートエリアから走ってきた為無理もなかった。大量のコンテナを積んだ倉庫の隅には、申し訳程度の救命用品が転がっているのが目に止まった。その中から毛布を引っ張り出して丸まると、セイラはそのまま眠りについた。

(ダイゴ、会いたいよ)

そう、思いながら。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ