Get your life!(2)
□あの目の色
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第34話 あの目の色
「動いたらこの人を殺します」
「セイラ…!」
ギンガ団のツクヨは、セイラの喉元にナイフを突きつけた。緋雨の技で吹き飛ばされた彼女は、肩で息をしながらも努めて冷静に振る舞っている。そして真直ぐに緋雨を見た。彼女は本気だ。このままこのギンガ団のショウという男を攻撃したら、セイラの命は無いだろう。ビィ、ベティ、ジュノー、誰一人として、彼女を止めることが出来なかったのだ。
「ひ、さめ」
セイラの声は震えていた。ついさっきまで自分を止めようとした声は、か細く震えている。自分の名前を呼んだ、今の声に意味などは無かった。喉元に突き付けられた刃物が、セイラの喉に残っていた先ほどの叫びの名残を反射的に吐き出させた。そんな調子だった。
「セイラを離せ」
緋雨はショウに向けた手を降ろした。ショウは途端に強気な顔になる。
そして、
「随分聞き分けがいいじゃねえか?ああ!?」
そう叫んで、緋雨を蹴り飛ばした。
「緋雨!!」
ギンガ団の男は執拗に緋雨を殴り、蹴り、踏みつけた。ポケモンの体は人間よりはるかに丈夫だが、華奢な上に弱っている緋雨の体では、抵抗もままならない。ビィ、ベティ、ジュノーたちは緋雨を助けたいと思っても、セイラを人質にとられた状態ではどうにもならなかった。
「いや、やめて、緋雨を、・・・緋雨を、いじめないで」
セイラの声は震えていた。ツクヨは無表情のまま、セイラの首にあてがうナイフを降ろす気配もない。
「これで少しは懲りたか?」
ギンガ団のショウは緋雨を開放した。緋雨は地面に転がった。
「緋雨…!!いや!!いや!!」
セイラの目に涙があふれ出た。セイラの叫び声にも一向構う様子はなく、ギンガ団の男は緋雨を捕獲するための檻を用意している。ギンガ団の女の方は、セイラを押さえたままだ。
「緋雨…!!」
「うるせえな、死んじゃいねえよ!!」
泣き叫ぶセイラをギンガ団の男が睨みつける。その男の背後から、倒れた緋雨がこっちを見ている。
(セイラ、だいじょうぶだ)
セイラは緋雨がそう伝えているのが分かった。赤く美しい、一つだけの目。宝玉の様なその眼には、どれだけの悲しみを湛えているのだろう。
「俺の主人だった人は、ギンガ団に殺された」
緋雨の言葉を思い出す。そして、緋雨が仲間に入りたいと言った時の、あの目を見た時の感覚。セイラは、やっとその正体に気が付いた。
(あの目の光は、そうだ、母様のだ)
死ぬ間際、セイラに家を出ろといった母親。あの時の、悲しい目の色。
あの時の緋雨の目は、それと全く同じだったのだ。
目の前で倒れている緋雨。傷ついたビィ、ベティ、ジュノー。そして、見れば、ツクヨのポケモンたちも倒れている。セイラは怒りが込み上げてきた。
「私を離して」
セイラは、ツクヨへ向かって低い声で囁いた。