Get your life!(2)
□卑怯者
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第35話 卑怯者
「私を離して」
セイラの低い声に、ツクヨは眉を少し動かした。
「あなたたちは、恥ずかしくないの?」
「はぁ?」
怒りながらも、涙声のままのセイラにギンガ団の男、ショウが笑う。
セイラは、ツクヨの方を振り向いた。
「あなたのポケモン、倒れたままよ。貴女は心配しないの?」
「…」
ツクヨは無表情のままだ。しかし、その感情が僅かに揺れ動いたのを、ショウは見逃さなかった。
「あなたたちは卑怯だわ。寄ってたかって、自分たちの勝手にして。そのくせ、ポケモンたちが傷つこうが、構わないのね」
「おい、」
ショウが遮ろうとするも、セイラは止まらない。
「自分たちはポケモンがいなくちゃ何にもできないくせに!!この卑怯者!!」
そう叫んだ瞬間、セイラはもがいた。突き付けられたナイフの刃先が、わずかにセイラの肌を切り、一筋の血が流れた。
それが合図だった。
「黙れ!!!」
叫んだのはツクヨだった。ツクヨが振りかぶりそうになったナイフは、ベティが叩き落とした。ビィ、ジュノーはセイラと緋雨の前で戦闘態勢を取り、セイラにつかみかかるツクヨを引きはがそうとする。
「黙れ、黙れ、黙れ…!!」
「落ち着け、ツクヨ!!」
言われたくない言葉だったのだろうか。ツクヨは錯乱した。揉みあいになったセイラは、眼鏡を叩き落とされる。
「大丈夫、セイラ!?」
ベティが駆け寄る。セイラは、傷口を押さえている。幸いにも、傷口は浅い。
「てめぇ、ふざけやがって・・・!!」
ぜえぜえと息を切らしているツクヨの体を支えながら、ショウはセイラを睨みつけた。
そして、ショウは眼鏡を外したセイラを見た。
「おい…アンタ、まさか」
忘れもない、「必ず生きて確保するように」と言われた、ターゲットの顔だ。
「アンタ、セイラだな」
一瞬表情が強張ったのを見る限り、正解の様だ。
「彼女も…、確保する必要がありますね」
多少冷静になったのか、息を切らしながらツクヨも構えた。
「おい、大丈夫か?」
「随分手こずりましたが、関係ありません。」
「ああ、そうだな」
ショウはにやりと笑った。余裕の笑みだ。
なぜなら、ツクヨがセイラを人質にする前に、仲間と通信していたからだ。
広大な庭の敷地、その向こうから、多くのギンガ団員の姿が見える。
「セイラ、大変よ!!」
「ギンガ団が来たぞ!!」
「すごい数だねえ。僕、がんばらなくちゃ」
三匹の声に、セイラは思わず身構えた。
ギンガ団の二人は体制を立て直して、セイラに迫る。
「隻眼のキルリアさえ手に入れば大儲けだったのに、まさかこんな立派なオマケがつくなんてな!」
ショウがセイラに手を伸ばした、その瞬間だった。
倒れていた緋雨の目が赤く輝き、セイラたちは光に包まれた。
そして、一瞬で姿を消した。