Get your life!(2)

□とわずがたり
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第37話 とわずがたり

 俺は自分が生まれる前のことを覚えている。

とはいえ、なにも見えない。なんの知識もない。

ただ、まどろみのなかで、自分を世界の外から温める熱と、低くて優しい声がした。

早く生まれておいで、と、確かに言われて、その声の主にとても会いたくなった。




俺の主人は、国際警察の一員だった。選りすぐりのエリートたちの中でも、特に優秀な捜査員には、コードネームとポケモンの卵が与えられる。

コードネーム:ダンディー、だなんて、冗談だと思うだろうが、――彼の同僚の名前も『ハンサム』であったし、そんなものなのだろう――それが俺の主人のコードネームだった。
そして、彼のパートナーとして与えられたポケモンの卵。それから生まれたのが俺だった。

ダンの主な任務は、犯罪組織の調査。実情を調べ、アジトの内部を探り、動かぬ証拠が存在するタイミングで、被害を最小限に止めて制圧する。
俺は、コードネーム『ダンディー』のポケモン『緋雨』として、各地方を巡っていたんだ。

彼はいい主人だった。俺は本当に幸せだった。

だが、主人は死んだ。ギンガ団のボス、アカギを追跡している最中のことだ。

組織に潜入していた主人は、アカギがテンガン山で何か目論んでいるのを調査していたが、それを見抜かれたのだ。

間者と見抜かれた主人と俺は、アカギとそのマニューラと激しい戦いになった。
しかし、あの時の俺は力が足りなかった。正体が露見したことに大いに動揺もしていた。

結果、俺は主人と、右目を失った。唯一のパートナーを、俺は守れなかったんだ。
主人を守り抜くために与えられたはずのこの俺が、主人を守れなかった。
任務も存在意義も全うできなかった俺は、国際警察を去った。
そして…、俺はテンガン山の麓で、暮らしていたんだ。
すべてを無くして、自分自身を恨みながら。

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