Get your life!(2)

□暗雲
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第42話 暗雲(前編)

ここは、リゾートエリアにある邸宅。
腹違いの姉の消息を追い続けるカトレアは、コクランからの報告を受けていた。

「それで、お姉さまはまだ見つからないのね。」

ギンガ団はいったい何をしているのかしら、と苛立つカトレアは、ふああ、とあくびをした。その強すぎる超能力を刺激しないようにするために、戦いを禁じられてきたカトレアだったが、極秘に力を使う訓練をしていた。その代償として、眠気が抑えきれない。

「申し訳ありません。わたくしも力不足で、未だにセイラ様をお迎えできておりません」

セイラ様、という言葉を口にするだけで、常に冷静なはずのコクランの胸はざわめいた。愛とも憎しみともつかない感情が渦巻いている。
それでも、キャッスル・バトラーを務め上げるだけあって、そのわずかな感情の変化など表にも出さない。

「まぁ、コクランが見つけられないものをギンガ団が見つけられるはずもないわ」

いらっしゃいムンナ、と言って、彼女は自分のムンナを呼び寄せた。
カトレアの強すぎる力と共鳴させないために、幼いころは引き離されてしまっていたムンナは、主人の呼び声に嬉しそうに飛んで行く。
ここ数か月でカトレアは変化しつつあった。自ら「力をコントロールするための手段を教えてほしい」とコクランに頼み、修行を始めた。「ポケモンバトルができない娘のために」と命じられ、彼女に捧げるかのようにバトルキャッスルで戦いつづけてきたコクランにとって、この変化は驚くべきことだった。
彼女は口数が少しだけ増え、少しだけ笑うことが増えた。修行を始めたカトレアのために、ムンナを彼女のもとにこっそり返すと、とりわけ嬉しそうだった。
それでも。腹違いの姉の消息が不明のままだと知らされると、彼女の表情は曇った。

「恐れ入ります。・・・引き続き、お迎えできますように努めてまいります。」

 一度セイラを追い詰め、そして逃がしたことは報告していない。その後の足取りを追えていないからだ。まだ幼い主人に半端な結果を報告しても、いたずらに心を乱しまう。主人の前に出すのは完璧な結果、ただそれだけだ。
 (それにしても、)

セイラの足取りもさることながら、ギンガ団の不穏な動きも気がかりだ。
今までのギンガ団は、表向きは宇宙エネルギー有効活用のための開発事業を展開しつつ、その陰で略奪したポケモンの売買など、闇ルートで金を稼ぐ、どの地方にも見られる「悪の組織」だった。そういった組織は足がつかないことから、この家のような家をパトロンにつけ、こちらの要望にある程度応えさせていたのだが。

(最近は、勝手な動きも多いですね)

 ノモセシティの爆発といい、あからさまなポケモンの略奪といい、目立つような真似が増えてきた。資金繰りに苦労しなくなってきたのか、こちらが申し入れたことに対しても反応が悪い。セイラの捜索がその最たる例なのだが、その他にも、「この家をこの家たらしめる」ために任せていることは多々ある。陰で動いてもらうには、少し都合が悪くなってきた。 
そろそろ、手を切るよう申し入れるべきか。
その件についても申し上げるべきだ。コクランは懐中時計を見る。

「さぁ。カトレアお嬢様、そろそろお時間です。」

カトレアは名残惜しそうにムンナをボールに戻すと、コクランに返した。

 「お母様、まだ私にバトルを許してくださらないかしら」

「修行を初めてまだそう経ちませんから、致し方ありません。しかし、きっとすぐですよ」

 間もなく、久方ぶりにこの家の主人、ロザンナが帰ってくる。
 出迎えをするべく、コクランはカトレアを伴い部屋を出た。



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