Get your life!(2)

□あまりに哀しい愛の言葉
1ページ/1ページ

第44話 あまりに哀しい愛の言葉

コクランが各部屋の見回りを終え、カトレアの自室に入ると、部屋の主は案の定、浮かない表情だった。

「お母様は分かってくださらない」

と拗ねるカトレアに、

「ロザンナ様のお言葉は、カトレア様を思っての事ですよ」

と答えた。そう、カトレアの超能力の力は強すぎるのだ。彼女の父親譲りで。

カトレアの父―――、つまり、セイラの父は、セイラの母の死ののち、まもなく病床に伏した。それは肉体の病ではない。精神のバランスが崩れ、自身の能力のコントロールを失った。力の暴走が収まったあと、その場にいたのは世の常ならざる彼の姿だった。今や翡翠色の瞳の色は褪せ、虚ろだ。何も発しない。ただ時々、涙が一筋、やせ細ったほほを伝っていく。

あの女が死んだと知ったからよ、と、当時のロザンナは呻いていた。
本当は私を愛してなどいなかった。けれど私のこの「名家」の資金と肩書は欲しかった。
私はこの人を愛しているけど、この人が愛したのはあの女だ。
私は愛されなかった。この人が愛したのはあの女のいるこの屋敷だ。

そう言って慟哭するロザンナを自室へ連れて行った日の夜のことを、コクランは思い出していた。つい半年ほど前のことだというのに、やはりロザンナは強かった。
カトレアには本当の原因を知らせないまま、自力で「名家」の地位を守っている。
当然だ、言えるはずもない。カトレアの存在すら、父親は望んでいなかったと思わせてしまいかねないのだから。

「この家は私が来る前まで困窮していたのは知っているわ。たとえ私を愛していなかったとしても、この人は自分で私を迎え入れ、子供をなしたのだから、その責任はとらせるわよ」

それは、死なせない、ということだろう。
あまりに哀しい愛の言葉だとコクランは思った。

(ここまで、だれも幸福になっていませんね)
せめて目の前の無垢な少女には、この経緯は知らせずにいたい。
そう思いながら、コクランはカトレアをなだめていた。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ